2006年06月12日

敬愛する自動車営業スタッフのTさんからメールを頂戴するの巻

私は、「新車を買って後悔したくないですよね?」という新車購入支援サイトを4年間運営している。
かつて、私は、某自動車メーカーに在籍し、特定のセラー(=製造&販売者)の立場に居たものの、ユーザー(=消費者)やその他のセラーの「立場」を正しく理解していなかった。
私は、このサイトの運営を通じて、多くのユーザーとセラーと縁を持ち、双方の立場の理解を大きく進めることができた。
サティスファクションプロデューサーである私は、このことを一生の財産と認識している。

私は、二年前、このサイトの掲示板を通じて、某自動車販売会社に勤めるTさんという営業スタッフと縁を持った。
私は、Tさんを技術的かつ精神的に支援すると共に、Tさん及びTさんが勤務する会社の立場を多く学ばせていただいている。

私はTさんを敬愛している。
なぜならば、Tさんは、「どのようにして、自分の利益(=販売目標を達成すること)とお客さまの利益(=カーライフにおけるニーズをリーズナブルなコストで達成すること)を結びつけようか?」と、積極的に自問自答しているからだ。
営業を、「自分の利益をお客さまに押し付けること」と誤解している営業スタッフや経営者が多い中で、Tさんのこの行動習慣は正に賞賛モノだ。
とは言え、さすがのTさんも、全ての答えを見つけることはできない。
が、Tさんは、まだ二十代。
先述の思考を具体行動化できる能力が乏しくても、何らおかしくない。

ただ、甚だ恐縮だが、私はTさんが不憫でならない。
なぜなら、私は、Tさんに支援を行う度に、Tさんの不足している能力が会社から殆ど補われていない実態を認知するからだ。

先日も、私は、Tさんかから、このようなメールを頂戴した。

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最近、来店されるお客様が目減りしてきているため、イベントを催そうかと思い企画を考えているところなんですが、クルマ屋ゆえに、車に関するアイディアしか思い浮かびません・・・。
昨年までですと、●●から◆◆を取り寄せて店頭で販売したり、■■から▲▲を取り寄せて販売したり、税務署から怒られましたが、★★を販売したりといろいろ催してきました。
そこでなんですが、お客さんが来店しやすい集客のしやすいイベントに行かれた経験があれば、ぜひ教えていただけないでしょうか?
このまま来店客の減少傾向が続くと、以前のような常に閑古鳥の鳴くお店に逆戻りしてしまう懸念がありまして・・・。

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私は、このメールを一読し、Tさんが在籍している販売会社の経営者は、相変わらず、営業スタッフを当月の売上や利益といった短期の結果や見込客リストに載っている商談にのみ執心させ、彼らの能力開発を怠っている、と直感した。

私がこのように直感したのは、目的、ここで言えば、「なぜ来店客数を増やしたいのか?」という内容、が付記されていなかったからだ。
他者に実行手段のオプションを問う場合、実行目的を付することは欠かせない。
他者が、実行目的を理解せずに、オプションの最適選択を果たすことはできない。

しかしながら、私は、敬愛するTさんを無碍にすることはできない。
ついては、非常に簡素ではあるが、解決のアプローチとなるであろう内容を記載したメールをTさんへ送った(※以下に転載)。

Tさんは、直属の上司である店長や経営者から、「なんだこの販売実績は!もっと売れ!なぜ売れない?客が来ない?客が来ないなら、呼べばいい!何としてでも呼べ!」、とやみくもに追い込まれているのではないだろうか。
なぜならば、Tさんの最大の関心事が、「どのようにして、自分の利益とお客さまの利益を結びつけようか?」、即ち、「どのようにして、お客さまに満足してもらって新車を買っていただこうか?」という営業スタッフとして果たすべき目的ではなく、「どのようにして、一人でも多くのお客さまを店へ呼ぼうか?」という営業上の一施策に成り下がっているように見受けられたからだ。

私のこの想像が正しい場合、経営者は、即刻、このマネジメントを止めるべきだ。
営業スタッフをこのような精神状態へ陥れるマネジメントは、賢明とは言えない。

「売れない」という事実には、然るべき原因がある。
たしかに「来店客の減少」はその大きな原因であろうが、それ以外にも大きな原因は必ずあるはずであり、かつ、「来店客の減少」にも然るべき原因があるはずだ。
「売れる」という事実を持続的に実現するには、原因とその解決策を一つ一つ仮説を立てて案出、実行することが欠かせない。

Tさんが在籍する販売会社の経営者は、Tさんをやみくもに追い込むのではなく、効果性と持続性を併せ持つ問題解決能力をTさんに授けるべく、然るべき社内マーケティングを実行すべきだ。
さもなければ、Tさんの営業実績は停滞し、Tさんは、最悪、士気の減少から退職の道を選択することにもなりかねない。

経営者の、社員に対する無作為の罪は、決して軽くない。





ご参考

Tさんへの返信メール

(前略)

Tさんは、店舗の集客策までお考えなのですね〜すごい!
店舗の集客責任は、本来、店長や営業本部の責任ですからね〜。

私は長く生きてきたので、集客に関してそれなりの考えはあります。(笑)
ただ、誠に失礼ですが、質問が少し漠然とし過ぎていて、的確に回答することができない、というのが本音です。
ご気分を害されたら、ごめんなさい。

つきましては、以下の内容を参考にしていただき、再考及び再お問い合わせいただきますようお願い申し上げます。(礼)

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 1.なぜ集客したいのか?
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どんなことを実行する際においても、大事なことは目的を明確にすることです。
目的が明確でないと、最適な手段を選択&実行できなかったり、実行主体である社員のやる気が出なかったりします。

販売店にとって集客は死命線です。
が、集客自体に意味はありません。
しかも、集客は多くのコストを要します。
ですので、ある時点において大量集客を達成したとしても、そこに要したコストが予め定めた期間内で回収できなければ、店舗はその集客によって大きな損失を被ります。

こうした話は営業本部の方やメーカーの方から何度も聞かされていると思いますが、どうぞTさん、くれぐれも注意してください。

私は、自動車販売店の車両販売部門における主だった集客目的を以下のように考えています。

<1>初来店客に車を即決していただく。
<2>初来店客に見込み客となっていただく。
<3>初来店客に店舗へのロイヤリティを高めていただく。
<4>初来店客に個人情報をご提供いただく。
<5>ご無沙汰顧客に車を即決していただく。
<6>ご無沙汰顧客に見込み客となっていただく。
<7>ご無沙汰顧客に店舗へのロイヤリティを高めていただく。
<8>ご無沙汰顧客に最新個人情報をご提供いただく。
<9>見込客に車を成約いただく。
<10>優良顧客にお客さまをご紹介いただく。

これらの目的はいずれも大切で、どれかに偏り過ぎると、必ずリバウンドが出ます。(笑)

ただ、当座、何かに集中することは有効なので(※状況によっては<7><8>を同時実行するなども可)、まずは、●●店の経営課題を解決するには、上記のどれを集中実行するべきなのか、店舗スタッフ全員で考えてみることを強くお勧め致します。

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 2.どのようなお客さまを集客したいのか?
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洋服屋さんがセールを開催する際、優良顧客の招待日を、一般客の来店日と別に設定し、かつ、多くの場合、DMで告知するなど非公開にしています。
これは、お客さま毎に達成したい目的を別々に設定し、それぞれのお客さまの満足と自社の目的を共に担保するための手段です。

1を明確にする際、どのようなお客さまを集客したいのか、必ず明確にしてくださいね。

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 3.いつ集客したいのか?
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私は、自動車販売店の車両販売部門における効果的な集客日&時間帯を以下のように考えています。
(※販売エリアの文化&行動特性によって差はあります。)

<1>金曜の夕方から夜(※主たる対象客:帰宅途中のサラリーマン&ウーマン)
<2>土曜と日曜(※主たる対象客:土日を休日とするサラリーマン&ウーマン)

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 4.どれくらいのコストをかけて集客したいのか?
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1で述べた通り、集客は、それ自体が目的ではなく、●●店の経営課題を解決するための手段です。
そして、集客に要したコストは回収せねばなりません。
(※コストは、お金だけでなく、人手、手間、時間も含まれます。)

ついては、解決したい経営課題(=目的)に応じて、どれくらいコストをかけるのが妥当なのか(=後に回収して利益を創出することができるのか)、明確にしてみてください。

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 5.販売店単独でどのような集客策ができるのか?
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【例1】「80年代ロックライブ at ●●店」
1→<7><8>
3→<1>
4→<100千円程度>(※バンドへのギャラ+軽食代)
お客様来店メリット→80年代ロックのコピーバンドのライブ演奏が聴けること。
概要→80年代のロックブームに乗っていると思われる世代のご無沙汰顧客に帰宅途中来店いただき、ライブ演奏と軽食を楽しんでいただいた後、歓談しながら、車の使用状況やニーズ、及び、新個人情報を収集する。後日、収集したそれらの情報をもとに、最来店を促進したり、お勧め車両の提案書をお渡しする。

【例2】「▲▲(※車種名)の競合車一気乗り大会 at ●●店」
1→<1><2><4><5><6><7><8><9>
3→<2>
4→<100千円程度>(※レンタカー代)
お客さまメリット→▲▲を競合車と比較しながら検討できること。
概要→■■や◆◆と言った▲▲の競合車のレンタカーを用意し、▲▲と比較しながら現車説明や試乗を行う。

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 6.以上をどのようにお客さまへ伝えるか?
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1の「集客の目的の設定」と同じくらい大事なのは、以上の内容をどのように2の「対象客とするお客さま」へ伝えるか、及び、来場確約を取らせていただくか、ということです。
どんなに優れた企画でも、お客さまに伝えられなければ無意味です。

店舗スタッフ全員で、以下の伝達方法案の内、費用対効果良く対象客へ伝わり易い、と考えら得る方法を選択&組み合わせてみてくださいね。

<1>(新聞折込)チラシ
<2>ホームページ
<3><1>+ダイレクトハンド
<4><1>+ポスティング
<5><1>+ダイレクトメール
<6><4>+テルコール
<7><5>+テルコール
<8><2>+テルコール
<8><2>+電子メール



返信メールとブログ記事を読まれたTさんから頂戴したお返事
(※Tさんには、メールの転載を含むこの件のブログ記事化を了承いただいていました。)

(前略)

朝から堀さまに私泣かされております。
ひとり、(ブログの)記事を読みながら涙を流しておりましたので、周りのスタッフが怪訝そうな顔をしておりました。

(中略)

私も自身で「漠然としたお話をさせていただいているな」と感じておりました次第です。
しかしながら、堀様のアドバイスを拝見させて頂いて、集客の目的が明確化されました。
早速今日以降ミーティングにおきまして、提起させていただきたいと思っております。
お忙しい中、アドバイスいただきまして、誠にありがとうございました。

それと同時に、私自身が「営業マン」に成り下がっていることに気づかされました。
私は「カーライフアドバイザー」であります。
その自負も商品知識も話法も持ち合わせているつもりでおりました。
しかしながら、単なる「営業マン」に成り下がっている現状。
恥ずかしく思います。

なんとか現状を打破し、堀様のブログを拝読し、ジレンマからの脱却を図れば、自ずと道は開けると思います。
これからも、どうぞよろしくお願いいたします。

●●(社名) ▲▲店
カーライフアドバイザー T



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