2008年03月20日

トヨタ自動車の渡辺捷昭社長のインタビュー記事”F1でも「カイゼン」”を読むの巻

報道記事の大半は、衆目を引いたり、広告主のご機嫌をとるべく、恣意的に編集されている。
私はオヤジであり(笑)、この現実は理解しているつもりだ。

昨日、トヨタ自動車の社長を務める渡辺捷昭さんのインタビュー記事”F1でも「カイゼン」(2008年3月17日付時事ドットコム)”を読んだ。
本記事も多かれ少なかれ恣意的に編集されているとは思うが、私は以下を直感した。
「トヨタは、当分F1で勝てない。<ベンチマーキングに基づくカイゼン>を最重要業務指針としている間は・・・」。
そう直感した理由を述べる前に、まず、<カイゼン>及び<ベンチマーキングに基づくカイゼン>に関する私の解釈を述べたい。
<カイゼン>とは、「現存の業務プロセス(方法論)の中に機会損失を見つけ、業務プロセスを最適化すること」だ。
<ベンチマーキングに基づくカイゼン>とは、「カイゼンを、優秀他企業との差異分析により実行すること」だ。

断っておくが、私は、<ベンチマーキングに基づくカイゼン>をナンセンスだとつゆも思っていない。
<ベンチマーキングに基づくカイゼン>は、費用対効果良く業務プロセスの品質(生産性)を高める極めて有効な手法だ。
私は、トヨタが規格大量生産を旨とする自動車メーカーとして今日成功を収めているのは、「GM車を分解&研究&カイゼンすることから始まったクルマ創りを愚直なまでに貫いてきたから」である、と考えている。

なのになぜ、私は先述のように直感したのか?
それは、<ベンチマーキングに基づくカイゼン>は、コストパフォーマンスを命とする市販車(=規格大量生産品)創りには有効性が高いものの、技術的先進性を命とするF1マシン(=高品質受注生産品)創りには有効性が低いから、だ。
競合チームのベンチマーキングを基本視座としてカイゼンに注力している限り、競合チームより秀でた技術を競合チームより早く開発することは、原則あり得ない。
「既にあるモノの品質を高めること」と「無から有を生み出すこと」は、考え方において通じるところこそあれ、根本的に違う。

トヨタは優れた人材の宝庫という。
そのトヨタがF1に参戦し、今年で7年目になる。
このブログ記事によると、トヨタは、F1事業へマクラーレンに次いで二番目の巨費を投じている。
にも関わらず、トヨタがまだ一度も勝利に恵まれていないのは、このことに気づいてはいるものの本業の成功体験が得心の邪魔をしているからではないだろうか。
トヨタがF1で勝つために今すべきことは、無から有を生み出す人、即ち、競合チームより秀でた技術を競合チームより早く開発できる技術者を擁するべく、<ベンチマーキングに基づかない(=独創的)カイゼン>を最重要行動指針とすることではないだろうか。

仕事は、成功体験が無いと、自信を持ってできない。
が、成功体験があるからといって、必ずしもうまくできない。
というのも、ゼロベース思考が困難になり、結果、目的と手段(方法)を誤認したり、現状を盲目肯定してしまうことが少なくないからだ。

「成功体験を持つ好機を得たら、体験の内容よりも、成功のエッセンスを五臓六腑に染み入らせる」。
私は、一クルマ好き&株主として(笑)、今回トヨタからこのことを学びたい。


★該当記事:F1でも「カイゼン」=トヨタの渡辺捷昭社長(2008年3月17日付時事ドットコム)

▽…F1世界選手権シリーズへの参戦7年目を迎えたトヨタ自動車。これまでの6年間ははかばかしい成績を残せずにきた。市販車の開発ではライバルメーカー車を購入して分解・分析するのが常道だが、F1車にはその手が使えない。渡辺捷昭社長(66)は「実物が手に入らない中で、敵の力を分析するための経験値が足りなかった」と振り返る。
 ▽…もっとも、過去の成績を嘆いているばかりではない。「F1車の改良や練習の様子をつぶさに見ていると、着実にカイゼン(改善)が進んでいる」という渡辺社長。「カイゼン」の積み重ねで、世界有数の自動車会社となったように、F1でも「カイゼン」の進展がこれまでにはなかった好成績を生みだすと思っている様子。
(※以下省略)


★追伸:不遜な余談(?・笑)

日本の経営者は、とにかく、<ベンチマーキング>いや<同業界の競合企業が遂行している業務プロセスの物まね>が大好きだ。
成功体験が無くてもだ。(笑)

彼らは、事あるごとに、「先生、ヨソはこれ、どうやってます?」と私のような外部の有識者に効果性を尋ね、聞いた内容を社内で展開するようすぐに担当役員へ命じる。
たしかに、F1のような高品質受注生産品を創るビジネスでなければ、その行動は必ずしもNGではない。
が、彼らは、大抵、該当企業の業務プロセス(方法論)がどのような背景や目的から生まれたのかを得心しない(←しようとしない)まま始めるため、その取り組みは、高確率でカイゼンに至ることなく立ち消える(→社員さんは「やらされている感」&「失敗体験」が増える)。
彼らのような経営者が経営する企業は、枚挙に暇がない。

だから、本文の内容から誤解を受けるかもしれないが、<ベンチマーキングに基づくカイゼン>がやり切れる(徹底できる)のは、企業にとってそれだけで素晴らしいことだったりする。
ちなみに、私堀は、トヨタが本業の自動車の規格大量生産事業で今日成功を収めている真因をここに見出していたりする。(笑)



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この記事へのコメント
物真似に付加価値を付け、改善と称して下請けと従業員を叩いて利益を出した会社ならではの発想ですね。(爆)

量販車としては誤魔化せてもF1の世界では技術力も先進性も無い。全く歯が立たないと言うことを吐露してるだけです。
Posted by おやぢ at 2008年04月18日 19:21
おやぢさん

はじめまして、堀です。
参考になるコメントをありがとうございます。(礼)

<ベンチマーキングに基づくカイゼン>はトヨタの登録商標ではありません。
トヨタをベンチマークすることでできるカイゼンは、とりわけやり切りたいですね!(笑)
Posted by at 2008年04月18日 21:41
5
同感です。

とある企業のBPRをお手伝いしていたときも、とかく「ベストプラクティス」「トヨタ生産方式」という言葉が出てきましたが、それと同時に「革新を」とも…

マネージャーと「カイゼンで先進的なことができるんならトヨタはとっくにF1で勝ってますよねぇ」なんて話をしていたことを思い出しました。
Posted by まっしぃ at 2008年04月19日 11:05
まっしぃさん

はじめまして、堀です。
ご経験に基づくコメントをありがとうございます。(礼)

> 同感です。
ご同感いただけて光栄です。(礼)

本文でも述べていますが、私は、高品質受注生産品を創造する際に<ベンチマーキングに基づくカイゼン>を行うことを否定していません。
「人のふりを見て、我がふりを直す」ことは、未来永劫続けていくに足る有意義な活動です。
ただ、この活動によって創造できる競合優位は、自ずから限りがあります。
ゆえに、高品質受注生産品を創造する際は、<ベンチマーキングに基づかない(=独創的)カイゼン>を行うことが欠かせない、と私は思うのです。
これは、お気に入りのスーパーギタリストを完コピし続けるだけでは後世に残るギタリストになれないのと、根本は同じではないでしょうか。(笑)
Posted by at 2008年04月19日 14:41