2009年12月19日

ナイキのフィル・ナイト会長がタイガー・ウッズ選手とのスポンサー契約を継続する旨表明なさった報道記事を読み、ブランドマーケティングで大事なことを再認識するの巻

「ブランド」とは物語です。
お客さまがブランド品から得ているのは、つまるところ、商品の機能/性能やその便益(ベネフィット)ではなく、商品の物語です。
「なぜ、“その”商品は、数多の困難の末、この世に生み出されなければいけなかったのか」。
「なぜ、“その”商品は、数多のor“あの”お客さまから愛されて止まないのか」。
この類の問いに対する合理的又は感情的な回答、それが物語であり、ブランドの正体です。

であるからして、「ブランドを創る」ということ(=ブランディング)は、「物語を創る」ということです。
「物語を創る」上で大事なのは、介在する人の人生と深く関わること、すなわち、「介在する人が自分の物語を創るお手伝いをすること」です。
ブランド品と称される有形or無形の商品は、まず間違いなく、商品を通じてお客さまや創り手の人生と深く関わっています。
リッツカールトンが「ブランドホテル」と周知されているのは、サービスマン(スタッフ)が、宿泊客の人となりやニーズを早く、深く洞察し、宿泊客の期待を良い意味で大きく裏切るサービスを提供し、宿泊客の人生を好転させているから、そして、宿泊客がその経験を世界に伝え説いているから、はたまた、そのことでサービスマンが全世界の同僚や上司から賞賛されているから、です。
「ブランド」を自社の主たる競合優位にしたい企業は、自社及び自社の商品に関わる全ての人の人生に深く関わり、“その”人が自分の物語を創るお手伝いをしなければいけません。

過日、私は、とある報道記事を読み、このことを再認識しました。
とある報道とは、ナイキ(NIKE)の創業者であり、現在会長を務めておられるフィル・ナイトさんが、契約選手であり、現在ハードな状況下にあるタイガー・ウッズ選手に対し、スポンサー契約を継続する意思を表明なさった件です。
ゴルフ=ナイキ会長、ウッズとのスポンサー契約継続を表明

スポーツ用品大手ナイキ<NKE.N>のフィル・ナイト会長は14日、不倫問題が報じられている男子プロゴルフのタイガー・ウッズとのスポンサー契約を継続する考えを示した。
ウッズの主要スポンサー企業である同社のナイト会長は、14日発行の米国スポーツ専門誌Street & Smith's SportsBusiness Journalで、「彼は本当に偉大な存在。彼のキャリアが終わりになる時、今回の軽率な行為は小さな過ちだったと振り返られるだろう。しかし、今、メディアは話を大きくしている」と語った。
自動車事故をきっかけに不倫問題が報じられているウッズは、11日に無期限のツアー自粛を発表。その波紋は大きく広がっており、米プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)<PG.N>傘下のジレットが広告キャンペーンでのウッズの役割を制限するとし、コンサルティング大手のアクセンチュア<ACN.N>はスポンサー契約を解除すると発表している。

2009年12月15日付yahooニューズ(↓)から転載
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20091215-00000419-reu-spo

ナイキは、とりわけブランドマーケティングに長けた会社です。
それは、「(偉大な選手は応援しても)誰も商品自体を応援したりしない」旨のナイトさんの経営哲学に拠るものです。
ナイキは、ブレーク前の「将来の名スポーツ選手」をいち早く発掘することに加え、経済的のみならず精神的にも支援しており、名選手の人気や知名度に一時的にあやかるだけの競合企業と一線を画しています。
私は、本報道記事を読み、このことが真実であること、ナイキのブランドマーケティングがホンモノであること、そして、ナイキが持続的に成長を遂げているのが当然であること、をつくづく知りました。

ナイトさんのこの表明は、さぞ、契約選手に大きな励ましと勇気を与えたでしょう。
ナイキと彼らの絆は、さぞ、強固になったでしょう。
ナイキの社員は、さぞ、会社へのロイヤリティ(忠誠心)と仕事の進め方に対する自信を高めたでしょう。
もちろん、ウッズさんは、さぞ、安堵し、復活の日を早めたことでしょう!



★ナイキのブランドマーケティングに関する参考情報(「just do it(ジャスト・ドゥ・イット)」から)

P18
ナイトが会社を大企業に育て、大金持ちにもなり、不本意ながら有名になるまでのあいだ側近として働いてきた人の仲でも、彼がなにを欲し、なにを考えているか理解できたものはほとんどいない。だが、ホワイトとハットフィールドには、今、ナイトが駆け抜ける黄金時代の神話を残念に思っていることはわかった。ナイトはマイケル・ジョーダンがナイキとかかわりだしてからの年月をしばしば「黄金時代」と呼ぶが、この時期にナイキは「事業の再構築」を果たしたのだった。ナイトは、わずか九年間で終わることになった一つの時代に思いを巡らしていた。その九年間にナイトと、マイケル・ジョーダンをはじめとする数多くの“ナイキ・ガイ”は、大衆文化に足音を残そうと手を携えて努力した。その結果、ナイキは、人々のヒビの生活様式や音や感覚、さらに不動の夢さえも変えてしまったのだ。
過去九年間に、億万長者の実業家・フィル・ナイトをと、バスケットボールの魔術師マイケル・ジョーダンの関係は神話となっていた。そこからビジネスとスポーツの両分野で多くの伝説が生み出された。ブルックリンで生まれ、ノースカロライナで育った痩せこけた少年は、高校時代に初めての試技審査の結果、チームからはずされていた。だが、まもなく優れた運動選手として頭角を現すことになる。彼が長年に渡って手を組んだのは、オレゴン州出身の優秀な中距離ランナーだった。この中距離ランナーはビジネススクールの論文をもとに大企業を作り上げ、現在もなお自分の創設した会社を経営しつづけ、その家庭で、若い世代から超人と崇められるスポーツ・ヒーローたちを結集させ、私営の殿堂を創設した人物である。
マイケル・ジョーダンがナイキ・ガイになったころ、フィル・ナイトは、自分の抱いていた直感を、ようやく全面的に実行に移しはじめた。その直感とは、会社がスポーツ・ファンとしての彼の強い思いをいたるところで反映し、ずばぬけた才能を持つ運動選手が栄光を手に入れるのを手助けしていけば、すばらしい結果が生まれるだろう、というものだ。偉大な運動選手について、一般の人々が自分と同じように考えてくれるようになれば、運動選手たちは昔の英雄――本に載っているような英雄――と同じになれるだろう。人々はそんな英雄たちの話に耳を傾けるだろう。そいうのも、真の偉大さは、現代社会のご都合主義や失望、混乱によりいつしか輝きを失ったものの、誰もが本来それはどこかに存在しうると信じており、優れた運動能力こそが、その信念に訴えかけるものだからだ。
英雄的な選手を崇拝するスポーツ・ファンはいても、スポーツ用品を崇拝するファンはいない。だが、偉大な運動選手が求める偉大なスポーツ用品は、ファンと言えるような顧客を生むだろう、とナイトは判断した。「誰も商品自体を応援したりしない」とナイトは言う。商品には、何か心を引く深遠なものとのつながりが必要なのだ。

P382
その他多くの契約選手を上げ連ねるのは避け、ナイキの選手起用についても考えてみたい。ただ人気選手をコマーシャルに登場させるだけなら、どんな企業でも考えつきそうなことだ。ナイキが他社と違った成功を収めたのには理由がある。まずナイキの草の根レベルからの活動と、不確かな将来に対する決断力の卓越性は見逃せない。ナイキがマイケル・ジョーダンと契約を結んだのは、ジョーダンがここまでビッグネームになる以前のことだったからだ。また、怪我や故障で試合に出場できないときやスランプで悩んでいるときにも選手を見捨てることなくサポートする体制を持っていることも、ナイキが数多くの選手から愛されている理由の一つであろう。その点においてナイキは、人気者を手当たり次第広告に登場させればいいと考えている企業とは一線を画しているのである。





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