2010年12月29日

裁判員裁判に参加して抱いた問題意識を備忘録化するの巻

c2534b20.jpg今年、私は、裁判員に選ばれ、裁判員裁判に参加しました。
参加した期間は合計五日で、担当した事件は熟年男性の殺人未遂です。
被告人は被害者を包丁で刺した直後、119番に通報の上、自首をしました。
争点は、中止未遂が成立するか(=死の結果を防止すべく“真剣”な努力を行ったか)、情状酌量が認められるか否かの二点でした。
判決は、検察の懲役四年(実刑)の求刑に対し、懲役三年保護観察付き執行猶予四年となりました。

私は、これまで裁判につゆも興味が無く、裁判員裁判など「他人事」でしかありませんでした。
しかし、今回日本国民の代表として裁判員に選ばれ、裁判員裁判を「自分事」として認識することができました。
ついては、裁判員裁判に関して抱いた問題意識の内、とりわけ強いものを備忘録化したいと思います。
守秘義務により綴れる内容が限られますが、これから裁判員になられる方はもちろん、裁判員裁判/制度の運営や報道に携わっている方のご参考になれば幸いです。


【1】「あるべき日本国民」像が不在/未共有のままダイバーシティを反映/活用して量刑を行うことの危うさ
裁判が始まる前、オリエンテーションのような場がありました。
そこで、裁判長は、裁判員に一人一人に質問する形で、裁判員制度の最大の主眼を、「市民感覚とダイバーシティ(様々な背景やキャリアを持つ人がもたらす思想/思考の差異)の反映/活用による、より公正な裁判の実施」との旨おっしゃいました。

今回裁判に参加したのは、裁判官3名、裁判員6名、補充裁判員2名の計11名でしたが、裁判での質問はもちろん(※補充裁判員を除く)、会議室での評議や量刑は各裁判員のダイバーシティが反映/活用されていた印象があります。
しかし、私は、各裁判員のダイバーシティの反映/活用が「より公正な裁判の実施」を必ず促すかというと、そうは思いません。
なぜなら、ビジョン、即ち、「あるべき日本国民」像が不在だからです。

私は、裁判を「犯罪行為の評価」と考えます。
犯罪行為を情状含めて公正に評価するには、犯罪者が選択した思考や行動の何が「あるべき日本国民」像とどの程度かい離していたかを明確にすることが欠かせません。
「あるべき日本国民」像が不在のまま各裁判員が量刑を行えば、犯罪行為の評価が完全な「オレ流」になってしまう(=「オレ」のレベルが高い人は評価が辛目になり、「オレ」のレベルが低い人は評価が甘目になる)危うさがあります。
また、「あるべき日本国民」像が不在/未共有のまま各裁判員の「オレ流」の量刑を一つに収束させれば、合意形成が納得度の低いものになってしまう危うさと、量刑の内容が「多数決的」「予定調和的」「旧来の考え的」「前例踏襲的」になってしまう危うさがあります。


【2】「善悪単純二元論」好きの一般市民に量刑を委ねることの危うさ

私たち一般市民の多くは、「水戸黄門」やマスメディアに毒されており、情にほだされ易いとか、「善悪単純二元論」を選好する嫌いがあります。
何かを契機に、一旦「悪人」と判断した人の過去や現在の言動は割引評価し、一旦「善人」と判断した人のそれらは割増評価します。
また、こうした割引評価や割増評価が、他の一般市民にネガティブなインパクトを与えているかに鈍感です。

量刑を公正に行うには、被告人を「善悪単純二元論」で見ず、犯罪行為と動機を客観的/合理的/大局的に評価し、「被告人本人の更生」「社会が被るコストと社会が享受するベネフィット」「社会(特に同様の立場の人)に与えるインパクト」を同時並行的に考えることが欠かせません。
これができない一般市民が行う量刑は、内容が情動的かつ非複眼的な色彩の濃いものになってしまい、再犯や同様犯罪の発生確率を高めるなど、被告人本人だけでなく社会全体にもネガティブなインパクトを与えてしまう危うさがあります。


【3】会議室だけで量刑を行うことの危うさ

私たち一般市民の多くは、求刑された経験がありません。
「一日刑に服すること」「一日執行を猶予されること」「一日保護観察を付けられること」が実際どのようなことなのか、また、それにより自分や家族が実際どのような不利益を強いられるのかを十分に理解していません。

私は、「懲役三年保護観察付き執行猶予四年」という量刑に合意しましたが、それは例えば「懲役三年“未満”保護観察付き執行猶予四年“未満“」にした場合よりも被告人本人や家族がカクカクシカジカな不利益を強いられるであろう等リアルな想定を行ってのことではありません。
刑の内容やインパクトをリアルに理解していない一般市民が会議室の中だけで行う量刑には、根源的な危うさがあります。


【4】フィードバック無しに量刑を行うことの危うさ

優れた会社の多くは、社員の業績を評価した(※肯定的、否定的の別無く)後、進捗をトレースし、それを本人と上司(評価者)に適宜フィードバックします。
例えば、上司がある社員の昇格を推した(=肯定評価した)場合、昇格した社員の業務進捗が良ければ、評価者の上司共々肯定評価され、昇格した社員の業務進捗が悪ければ、評価者の上司共々否定評価されます。
このプロセスのメリットの一つは、上司がより責任を持って社員を評価するようになることです。

【1】で述べた通り、私は裁判を「評価」と考えます。
裁判員がフィードバック無しに行う量刑は、内容が「自己責任/リスク回避的」な色彩の濃いものになってしまう危うさがあります。


【5】裁判員の門戸が事実上制限されていることの危うさ

「裁判員として裁判に参加したい(辞退できない)人は、選任手続きを受けに○月×日の午前9時15分に裁判所に来なさい。
審査と抽選に通れば、その日と○月△日と○月▽日と・・・の◇日間裁判員任務に従事してもらいます。
通らなければ、そのままお引取りください」。
裁判所はかくして裁判員を選出します。
裁判員として裁判に参加したければ、選任手続き日と公判予定日の数日~数週間は予め日中のスケジュールを空けておかなければなりません。
もちろん、抽選に通らなければ、空けておいたスケジュールはパーです。

裁判員の選出がかくなるプロセスで行われるため、事実上、裁判員として裁判に参加できる人はもちろん、そもそも参加を積極的に意思決定できる人は限られます。
これは、裁判員の門戸が事実上制限されていることと同義であり、【1】で述べた裁判員制度の最大の主眼である「市民感覚とダイバーシティの反映/活用による、より公正な裁判の実施」を根底から否定してしまう危うさがあります。

〔関連報道記事〕「裁判員制度」で困った事態に ドライバーが選出されたら?
 「先日、ドライバーが裁判員に選ばれた」という千葉県の運送事業者。同社は、2週間前にドライバーから裁判所に行くと報告を受けた。「2週間も先なので、ある程度の段取りは組める」としていた同社だが、裁判所に行った当日にくじで正式に決定されるため、「休みが1日で終わるのか、数日かかるのか分からない」という。結局、そのドライバーは裁判員に選出され、当日午後から8日間に渡って会社を休むことになった。
 同制度では旅費と日当が支払われるため、会社側も休んだ日の給与の補填となり、賃金負担は免れるが、売り上げ減は否めない。幸い、別のドライバーで対応でき大きな影響にはならなかったが、「専属便やルート便など、その人でないとできない業務だったら大変だった」と同社長は指摘する。
※2011年1月28日付「物流weekly」
http://www.weekly-net.co.jp/logistics/post-5688.php





★ご参考NHKから12月に送られてきた裁判員経験者向けアンケートの回答
(※同様のアンケートや取材の依頼を多々頂戴しており、報道関係者におかれましては以下を二次利用願います)

<質問1>
裁判員として実際に裁判に参加した感想はいかがですか?
1つ選んでお答えください。

(1)良かった
(2)どちらかといえば良かった
(3)どちらかといえば良くなかった
(4)良くなかった
〔理由〕裁判を「自分事」として認識できるようになったから。

<質問2>
裁判員に選ばれる前は裁判に参加したいと思っていましたか?
1つ選んでお答えください。

(1)参加したいと思っていた
(2)どちらかといえば参加したいと思っていた
(3)どちらかといえば参加したくないと思っていた
(4)参加したくないと思っていた
〔理由〕裁判を「他人事」として認識していたし、裁判員を経験する合理的なインセンティブが無かった(見出せていなかった)から。

<質問3>
裁判員を経験して意識や生活に変化はありましたか?
1つ選んでお答えください。

(1)意識と生活が変わった
(2)意識が変わった
(3)生活が変わった
(4)特に変化はない

<質問4>
質問3で「変わった」と答えた方にお聞きします。
具体的にどのようなことが変わりましたか?
新たに始めたことはありますか?

裁判の報道をスルーしなくなった。
自分の言動が社会に与えるインパクトをより一層考えるようになった。

<質問5>
裁判員として参加して心理的な負担・ストレスを感じましたか?
1つ選んでお答えください。

(1)今でも心理的な負担・ストレスを感じている
(2)裁判中に負担・ストレスを感じたが、今は解消した
(3)特に心理的な負担・ストレスは感じなかった

<質問6>
質問5で「心理的な負担・ストレスを感じている(感じた)」と答えた方にお聞きします。
具体的にどのようなことに心理的な負担・ストレスを感じていますか(感じましたか)?
3つ選んでお答えください。

(1)人に重い刑罰を言い渡すこと
(2)体の写真など事件の生々しい証拠を見た
(3)評議で自分の意見が通らなかったこと
(4)判決の事実認定が正しかったのかという不安
(5)量刑が適切だったのかという不安
(6)周囲の人たちの理解が不十分
(7)人から裁判員として注目されること
(8)守秘義務があること

<質問7>
法廷での裁判官の審理の進め方は適切だと思いましたか?
1つ選んでお答えください。

(1)適切だと思った
(2)どちらかというと適切だと思った
(3)どちらかというと適切だと思わなかった
(4)適切だと思わなかった
〔理由〕特に大きな違和感や懐疑を抱くことが無かったから。

<質問8>
法廷での検察官の審理の進め方は適切だと思いましたか?
1つ選んでお答えください。

(1)適切だと思った
(2)どちらかというと適切だと思った
(3)どちらかというと適切だと思わなかった
(4)適切だと思わなかった。
〔理由〕「やろうと思えばもっと確かな証拠調べや事実確認ができた感」を覚えた(※一因)から。

<質問9>
法廷での弁護人の審理の進め方は適切だと思いましたか?
1つ選んでお答えください。

(1)適切だと思った
(2)どちらかというと適切だと思った
(3)どちらかというと適切だと思わなかった
(4)適切だと思わなかった
〔理由〕特に大きな違和感や懐疑を抱くことが無かったから。

<質問10>
裁判が始まる前に裁判官が刑事裁判の原則(「疑わしきは被告人の利益に」「有罪とするには合理的な疑いを超えた立証が必要」等)を説明したと思いますが、判断にあたって意識しましたか?
1つ選んでお答えください。

(1)意識した
(2)意識しなかった
(3)説明を受けたかどうか覚えていない

<質問11>
評議では自分の意見を十分伝えられましたか?
1つ選んでお答えください。

(1)伝えられた

<質問12>
判決を決めるにあたって一番どのようなことを重視しましたか?
3つ選んでお答えください。

(1)犯行の悪質さ
(2)社会に与えた影響
(3)被告の法廷での態度や外見
(4)被告の更正(立ち直り)の可能性
(5)被告の犯行前の事情(生い立ちなど)
(6)被害者(遺族)の感情
(7)裁判官の意見
(8)ほかの裁判員の意見
(9)過去の同じような事件の刑の重さ
(10)その他(犯行の動機/被告人と同様の立場の人に対する影響)

<質問13>
判決を決めるにあたって裁判官はどのようなことを重視していると思いましたか?
3つ選んでお答えください。

(1)犯行の悪質さ
(2)社会に与えた影響
(3)被告の法廷での態度や外見
(4)被告人の更正(立ち直り)の可能性
(5)被告の犯行前の事情(生い立ちなど)
(6)被害者(遺族)の感情
(7)ほかの裁判官の意見
(8)裁判員の意見
(9)過去の同じような事件の刑の重さ

<質問14>
判決に市民の感覚は反映されたと思いますか?

(1)そう思う
(2)どちらかをいえばそう思う
(3)どちらかといえばそう思わない
(4)そう思わない
〔理由〕量刑の内容に納得している裁判員が多いように感じられたから。

<質問15>
審理の期間についてどう思いましたか?
1つ選んでお答えください。

(1)ちょうどよい
(2)短すぎる
(3)長すぎる
〔理由〕特に大きな違和感や懐疑を抱くことが無かったから。

<質問16>
裁判員裁判では裁判の前に裁判官、検察官、弁護士が証拠や争点を絞り込みますが(「公判前整理手続き」)、判決を決めるにあたって、商人や証拠など判断材料は十分だと感じましたか?
1つ選んでお答えください。

(1)十分だった
(2)どちらかというと十分だった
(3)どちらかというと足りなかった
(4)足りなかった
〔理由〕「やろうと思えば、もっと確かな証拠調べや事実確認ができた感」を覚えたから。

<質問17>
裁判には罰則のある守秘義務が課せられていますが、守秘義務の範囲についてどう思いますか?
1つ選んでお答えください。

(1)今のままでよい
(2)話してもいい範囲を広げるべきだ
(3)話してもいい範囲を狭めるべきだ
〔理由〕説明責任の果たし度合いが国家的取り組みとしては不十分に感じるから。

<質問18>
実際に裁判に参加してみてどのようなことを問題だと感じましたか?
3つ選んでお答えください。

(1)裁判員を選ぶ手続きが不透明
(2)裁判が始まる前に争点や証人が全て決まっている
(3)心理的な負担が大きすぎる
(4)経済的な負担が重すぎる(日当が安すぎるなど)
(5)仕事など日程の調整が大変
(6)評議で自由に意見が言えない
(7)審理で自由に意見が言えない
(8)守秘義務の定義があいまい(どこまで話していいかわからない)
(9)その他(※具体的な内容は本文を参照願います)

<質問19>
裁判員を経験する前と後とで死刑制度に対する考え方が変わりましたか?
1つ選んでお答えください。

(1)経験する前も後も死刑制度を存続させるべきだと考えている
(2)経験前は存続させるべきと考えていたが、経験後は廃止した方がいいと考えるようになった
(3)経験前は廃止した方がいいと考えていたが、経験後は存続させるべきと考えるようになった
(4)経験する前も後も死刑制度を廃止するべきだと考えている
〔理由〕死刑は社会の安寧秩序を担保する制度/手法として有効性と経済合理性が高いと考えているから。
但し、本制度が持つ本来効果を実現するには、運営やその他制度の改定が必要に感じる。

<質問20>
「死刑の判断」を裁判員に求めることについてどのようにお考えになりますか?
1つ選んでお答えください。

(1)裁判員に「死刑の判断」を求めるべきではない
(2)「死刑の判断」を含めて裁判員が引き続き行うべき
〔理由〕刑の重い、軽いで裁判員裁判で扱う事件を制限するのに不公正さを感じるから。

<質問21>
市民が参加することで、裁判や社会はどう変わっていくと感じましたか?

自分の言動とそれが社会(他者)にもたらすインパクトをより一層意識するようになると感じる。
学生の必修科目として裁判員の経験を含めてもいい(というか、それが社会の持続的な安寧秩序を実現するために最も経済合理性が高い)と感じる。



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