2012年02月03日

青木崇行さん(カディンチェ株式会社代表取締役)の講演を拝聴し、ブータンが「世界一幸福度が高い」理由を垣間見るの巻

aoki過日、私は、早稲田大学ソーシャルアントレプレナー研究会が主催する「ブータンと仕事をするということ〜世界一幸せな国と日本を結ぶ」というセミナーに参加しました。
講演者の青木崇行さん(カディンチェ株式会社代表取締役)が実際にブータンと仕事をなさっており、ブータンが「世界一幸福度が高い」理由を垣間見ることができるのではないか、と考えたからです。
私のこの考えは少なからず叶い、とりわけ次の二事項は深く考えさせられました。
一つは、「日本人からすると、ブータンは、『幸福である』というより、『不幸ではない』ように見える」ということです。
このお話は、過日の気づきである、「オプション(選択肢)の過剰保有は、期待値の過剰な高騰を促すと共に、幸福どころか不幸に寄与しかねない」ことと通底しています。
自由の本質は「オプションが選択できること」であり、オプションの大量保有が自由な人生を、そして、幸福な人生を約束してくれるように思えますが、過剰保有が約束するのは不幸な人生です。
メンバーや後進の「オプションの最適保有量」、即ち、「分相応度」を決定することこそ、リーダーや先人が決定すべき最重要事項に違いありません。

もう一つは、「構造的に利権が集中しているにも関わらず、政府観光局において、特段不正防止の取り組みが施されていない、不正が殆ど起きていない」ということです。
青木さんのお話によれば、この主因は国民性にあるとのことですが、日本では到底考えられません。
「海水を飲むと際限無い」のと同様、人間の欲望、そして、オプションにはキリがありません。
本件は、ブータンのみなさんが、リーダー、先人、自己の不断の努めにより、日本人とは異なり、本事項を得心し、かつ、現状の人生を否定しない習性を会得なさっている一つの表れ、成果なのでしょう。
現状肯定の思考習性は自己の成長や社会の発展にはマイナスですが、青木さんが仰る通り、それでも個人が不幸を感じずに生活できる社会をリーダーが持続的に成立させられる、即ち、デザイン、マネージ(担保)し続けられる、のであれば、これは十分アリなのかもしれません。

青木さんの講演のレジメは、以下の通りです。
【Q1】〜【Q4】の質問は、全て私が行なったものです。(笑)
初見かつ不躾な私の質問に対し、青木さんは真摯に回答くださいました。
ブータンが「世界一幸福度が高い」理由を垣間見せてくださった青木さんに、この場を借りて改めて感謝いたします。(敬礼)


★青木崇行さんの講演のレジメ(※全て意訳)

来日して人気になった第5代国王のジグミ・ケサル・ナムゲル・ワンチュクさんと王妃との馴れ初めは、国王が17才、王妃が7才の時のこと。
過日の成婚は、当時交わした「お嫁さんにしてくださいね!」の契りが叶った格好だ。

ブータンは中国とインドに挟まれた所にあり、人口は65万人だ。
日本に当てはめると、面積は九州と同様で、人口は新宿区民の約倍だ。

ブータンは、かつては絶対君主制だった。
しかし、最近は、立憲君主制へ移行し、首相のポストも設置している。

「国民総幸福量(Gross National Happines)」は、1976年に第三代国王が提唱した以下を柱とするもので、GNHコミッションという政府部署に管理されている。
〔1〕公正で公平な社会経済の発達
〔2〕文化的、精神的な遺産の保存、促進
〔3〕環境保護
〔4〕よい統治
特徴的なのは、経済が明記されていること。
持続的な幸福には経済が不可欠であり、外貨の獲得が重要とのメッセージを感じる。

ブータンの産業は、水力発電によるインドへの売電(エネルギー業)がトップ(20%)だ。
以下、自給自足を主眼にした農林畜産業(18%)、売電設備のダムや観光用のホテルを作る建設業(12%)、エネルギー業に次ぐ外貨獲得の有力手段である観光業(9%)と続く。

ブータンは、観光業を重点産業と位置づけている。
管轄の政府部署は観光局で、マッキンゼーと策定した「自国の文化や環境を守る」を旨とする旅行施策、並びに、観光政策を実行している。
ブータンを訪れるには、観光局が認可したオフィシャルの旅行会社へ行き、ビザを下してもらう(※日本人ならほぼ下してもらえるが、申請すれば必ずしも下してもらえる訳ではない)必要がある。
料金は、ボリュームディスカウントはあるが、1人1泊290ドルと一律に決められている(※無償資金協力を得ているインドの人は適用外)。
全てパッケージツアーで、宿泊費、現地交通費、食事代、ガイド代など、現地で必要なサービスはほぼ全て含まれている。
ゆえに、所謂バックパッカーは不可だが、それはブータンとしても望むところである。
現地での各種サービスの品質は実際バラツキがある(←観光局が教育、指導している)が、観光客からは指定(任意選択)できない。
ガイドは常時同行するが、趣旨は監視というよりPRだ。

ブータンの国民は、平均月収が日本円で凡そ2万円で、国費で(=無料で)大学まで行ける。
私立の学校はゼロではないが、それは、生徒数の少ない遠隔地においてで、NPOが運営している。
優秀な人は国外へ留学することもあり、留学したまま帰国しないこともままある。

ブータンの幸福度が高い理由は3つある。
一つ目は、多くは農業に従事しており、自給自足でき、「足るを知っている」から、だ。
二つ目は、治安がいいから、だ。
三つ目は、先進国や物質文明の情報から隔離されているから、だ。
ブータンにテレビが入ったのは凡そ20年前で、インターネットは10年前。
所謂「ブランド品」は無く、国民の多くは「他人と比較する」習性を持たない。
しかし、近年、観光業の発展と共に情報流入が増加の一途で、若年層を中心に物質主義が浸透し始めている(→課題)。
iPhoneを持っていたり民族衣装の代わりにジーンズを腰履きしている若者も見かけるようになった。

ブータンの幸福は自分から見ると、「幸福である」というより、「不幸でない」という印象が強い。
近隣のネパールには、片足の無い人や物乞いをしているをよく見かけるが、ブータンでは皆無だ。
また、心身共に自然に包囲されている、依存しているので、ストレスが少ないのではないか。
オフィスワーカーをしている人も、10時出勤、16時退社の上、昼食休憩に2時間もかけている。
これは、日本人の私にとっては仕事にならないのだが(笑)これで生活が成立しているのだから、これはこれでアリに違いない。

【Q1】ブータンの国民の主な娯楽は?
→手作りの道具でアーチェリーを楽しんでいるのを見かける。最近、僅かだが、ボーリング場ができた。

【Q2】凡そ2万円の平均月収で、どうやってiPhoneや腰履きのジーンズを買っているのか?
→旅行会社経営者など富裕者の親からの支援や銀行からの借入に拠るものと思われる。

【Q3】青木さん自身は、幸福度が高いことを理由にブータンへ移住したいと思うか?
→短い期間ならイエスだが、10年以上の単位だとノーだ。自分は神奈川の出身なので、物質的かつ情報的に余りに刺激的で無さ過ぎる。

【Q4】観光局に利権が集中する構造になっている(ように見受けられる)が何か不正防止の取り組みはあるのか?
→特段聞いたことが無いブータンは日本と比べ、国民性から不正や汚職が少ない。


★講演者の青木崇行さんの経歴と現況(※早稲田大学ソーシャルアントレプレナー研究会の告知より)

2003年慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。
ソニー株式会社Corporate R&D A-cubed研究所に勤務後、2009年慶應義塾大学より博士(政策・メディア)取得。
同年、室内空間表現技術の研究開発に取り組むカディンチェ(株) を設立。
また、ネパールでの環境保全・青少年教育を目的とした特定非営利活動法人パックスアースを立ち上げて、現在に至る。
ブータンに関して主に下記の事業を行っている。
(特)パックスアース:旅行会社Keys to Bhutanの支援→ボランティアによるウェブサイトや旅行に関する問い合わせの翻訳
カディンチェ(株):ブータン政府観光局との協業(Web、旅博)→ブータン政府観光局の日本国内でのウェブマーケティングやイベント出展協力



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