2006年02月21日

山田孝之さんの報道をもとに、社会がつまづいた人を肯定的に評価する条件について考えるの巻

標題の報道は、「なぜか好意的な報道が多い山田孝之の隠し子発覚」(日刊ゲンダイ)。
「世界の中心で愛を叫ぶ」や「電車男」で主役を務めた山田孝之さんに認知しているお子さんが居られた事実が、通例否定的に報道されるところ、現時点では概ね好意的に報道されている、とするものだ。

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昨今、私は芸能ネタに疎い。(汗)
件の山田さんの演技は「世界の中心で愛を叫ぶ」で見ているものの、彼自身のことは全く知らない。
しかしながら、彼の報道を見たのも何かの縁であると直感し(笑)、通例否定的に報道される彼の行動がマスメディアから好意的に報道される理由、ひいては、社会がつまづいた人を肯定的に評価する条件、について少し考えてみたい。
日刊ゲンダイは、以下を本件に関する事実行為として報じている。
【F1】山田さんは、妊娠がわかった際、相手の女性と今後いかにすべきか円満に話し合った。
【F2】話し合いの末、「結婚はしないが子供は産む」、の合意が形成された。
【F3】山田さんは、生活費、養育費といった出産及び育児に関する費用を負担しながら、相手の女性に対し、結婚に至らなかった慰謝料を払っている。
【F4】山田さんの所属事務所は、山田さんを心身両面からサポートしながら、社会に対し、これらの事実を公表すると共に、厚情を求めた。

続いて、同メディアは、好意的に報道される理由として以下を挙げている。
【R1】所属事務所が、山田さんの芸能人生にとって致命傷になりかねない本件に関する事実を、隠すことなく公表しているから。

たしかに、【R1】はそうだと思う。

社会は、リスクを取って真摯に行動している(ように見える)人を、肯定的に評価する。
だから、社会は、不利益な情報を全て開示している(ように見える)人を、信用、又は、信頼、支持する。

ただ、好意的に報道される理由は、果たしてこれだけなのだろうか。
私は他にもあるように思えてならない。

私は、以下も理由として挙げることができると思う。
【R2】山田さんが、本件を円満に解決するべく、自助努力を尽くしている(ように見える)から。
【R3】山田さんを否定的に報道することにより得られるマスメディアの利益が、好意的に報道することにより得られるそれよりも少ないから。

私は、【R2】が無ければ【R1】は成立しない、と思う。

自身の利益に執心せず、全体最適の観点に基づきながら自助努力を尽くすことは、自身に対してはもちろん他者に対しても、誠実であり、かつ、納得性が高い。
ゆえに、社会は、何を目的としている場合であれ、そうした自助努力を尽くしている人を、高く評価し、厚情を与える。
そして、社会は、自助努力の目的が物事の成功である場合、その物事を尊び、自助努力の目的が失敗の修復である場合、失敗事実を斟酌する。
私は、好意的な報道は失敗事実の斟酌である、と思う。

また、私は、【R3】が無ければ、【R1】や【R2】は成立しにくい、と思う。

人及び社会は、獲得利益の最大化を志向するべく、行動を意思決定する。
行動を意思決定するということは、案出した行動がもたらすであろう経済的及び精神的利益を評価することである。
即ち、案出したある行動を実行することにより得られる利益、その行動を実行しなかったことにより被る逸失利益、案出した他の行動を実行することにより得られる利益、他の行動を実行することにより被る逸失利益、をそれぞれ算出し、どの行動が最大の利益をもたらすか判断することである。
マスメディアは、これにならい、否定的な報道をすることにより得られる自らの利益と、好意的な報道をすることにより得られるそれを算出し、後者の行動の方が得られる利益が大きい、と判断したのだろう。

では、マスメディアにそう判断させた利益差の主源泉は一体何なのだろうか?
これはあくまで推察だが、山田さんの芸能人及び人としての付加価値の高さ、ではないだろうか。
多分、今、山田さんの代わりを務め、同等及びそれ以上の利益をマスメディアに提供できる芸能人は居ないのだろう。
私は、好意的な報道はマスメディア自身の利益確保でもある、と思う。

こうしてみると、社会がつまづいた人を肯定的に評価する条件は以下の事項なのかもしれない。
【C1】失敗を修復するべく、自身の利益に執心せず、全体最適の観点に基づきながら自助努力を尽くしている(ように見える)。
【C2】失敗に関する情報は、不利益なものを含め全て開示している(ように見える)。
【C3】付加価値が高く、今後も多くの経済的及び精神的利益が見込める。

人生に失敗はつきものだ。
とりわけ、新しい価値を創ろうとしている時など不可避だ。

私たちは、社会を構成する生命体として、社会の持続的成長を促さなければならない。
社会が成長する源は新しい価値だ。
私たちは、新しい価値を創るべく、絶えずチャレンジしなければならない。

新しい価値を創るべくチャレンジすると、失敗は必ず起こる。
勿論、私たちは、失敗が起こらないよう、自助努力する必要がある。
同時に、失敗が致命傷にならないよう、事前及び事後、正しく自助努力する必要もあるのかもしれない。
というのも、かつて伊藤忠商事の社長を務められた丹羽宇一郎さん曰く、「日本人はブランコがゆれ過ぎる傾向がある(※)」から。

末筆になったが、私は、山田孝之さんが芸能人として大成されるよう祈念したい。


(※)丹羽宇一郎さんが書かれた「人は仕事で磨かれる(文藝春秋)」のP57にある以下の文章より引用。
「日本人というのはブランコが揺れすぎる傾向があると私は思います。悪いとなるとみんなで寄って集って引きずり下ろし、コテンパンにやっつけてしまう。ちょっと良くなると、拍手喝采してみんなで神輿を担ぎ、当事者を舞い上がらせてしまう。罪な国民です。」

人は仕事で磨かれる (文春文庫)
丹羽 宇一郎
文藝春秋
2008-02-08





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