2006年06月13日
ソフトブレーン、宋文洲会長の講話を聴くの巻
ソフトブレーンという会社がある。
この会社は、営業支援ソフトを介して企業の経営改革を行っている。
同社の最大の競合優位は、創業者であり、現在会長を務めておられる宋文洲さんの経営哲学だ。
宋さんの経営哲学は多くの著書で語られており、中でも、「やっぱり変だよ日本の営業」はかなりの販売部数を達成したと聞いている。
本日、私は、「日経ベンチャー」が主催する宋さんの講話を聴いた。
私は、「やっぱり変だよ日本の営業」を読破しているものの、多くのことを改めて気づかされた。
この会社は、営業支援ソフトを介して企業の経営改革を行っている。
同社の最大の競合優位は、創業者であり、現在会長を務めておられる宋文洲さんの経営哲学だ。
宋さんの経営哲学は多くの著書で語られており、中でも、「やっぱり変だよ日本の営業」はかなりの販売部数を達成したと聞いている。
本日、私は、「日経ベンチャー」が主催する宋さんの講話を聴いた。
私は、「やっぱり変だよ日本の営業」を読破しているものの、多くのことを改めて気づかされた。
最大のそれは、経営手法は経営者の人生哲学を達成するツールである、ということだ。
宋さんは、経営問題解決手法として、個人営業から組織営業への転換を提唱しておられる。
私は、これまで、それは彼の優れた合理的思考力能力が創造した成果物である、と考えていた。
この考えは誤りだった。
それは宋さんが志向する「あるべき経営」、つまるところ、「あるべき人生」を達成する為のツールだった。
(※それらの詳細については、以下に記した<講話の骨子>や<印象に強く残った内容>をお読みいただきたい。)
やはり、経営手法であれ何であれ、「手段」は、自分の哲学や理念(=生きる「目的」)を達成する為のツールであり、それらを欠いたまま創造されることはないのだ。
”スピード社会”と言われて久しくなる。
スピードが偏重される為に、手段が目的として誤認される傾向が強まっている。
そんな折、宋さんの熱い講話は、私を強く覚醒してくれた。
宋さんに、感謝、感謝である。
★講話の骨子★
【1】経営が変われば、営業も変わる。
【2】経営を変えるために、経営者は、あらゆる物事を客観的に判断し、かつ、変えるに足るオプションが持てるよう、絶えず自問すると共に、それらを高確率で達成する仕組みを創らなければいけない。
【3】経営者は、個々の社員が、自身の能力や資質を活かしながら互いに連携し、「普通に」努力して成果が出る職場を創らなければいけない。
【4】3を達成するために、経営者は、顧客に高確率で価値を提供できる一気通貫した業務プロセス、即ち、売れる仕組み、を創ることに加え、社員が果たすべき業務プロセスを全うし得たか否か(=提供した価値に顧客が満足したか否か)という事実をマネージしなければいけない。
★印象に強く残った内容★
企業の多くは、人事が変だ
次期社長を、現在の社長が選ぶ。
そして、自分が選んだ人を社長にした後、自分は会長になる。
次期会長を、現在の会長が選ぶ。
そして、自分が選んだ人を会長にした後、自分は名誉顧問になる。
これらは申し送りの人事で、不公正も甚だしい。
なぜ、企業はこうした変な人事をしているのか?
それは、内部統制が公正に機能していないからだ。
企業が客観性を担保するのは難しい。
客観の「観」という字にはどういう意味があるか?
「観」は、「なんとなく見る」、即ち、「思い込みを持たずに見る」、という意味だ。
物事を客観的に見、正しく判断する。
これは、企業経営だけでなく、あらゆることにとって重要だ。
が、企業は、それができない。
人事ひとつを見ても、それがすぐにわかる。
弊社は、村上世彰氏に社外取締役をしてもらっていた。
社外取締役の多くが経営監視機能を果たしていない中、私が彼を社外取締役として招いたのはなぜか?
それは、彼に弊社を客観的に見てもらいたかったからだ。
彼は、相手が誰であろうとも、正論を言う。
私は、彼の正論に耐えられるようになれば、弊社はより強くなる、と考えたのだ。
私が村上氏を知ったのは、彼からの一本の電話がきっかけだった。
昨年(2005年)の2月25日、彼は、私との面会を求めて、弊社へ電話をしてきた。
その電話は、最初、弊社のCFOがとった。
その者は、村上氏から「おまえでは話にならん」と言われた。
彼はそのことを涙ぐんで私に報告し、私は彼と面会することになった。
村上氏は、私にこう言った。
1.企業の多くは、内部統制が機能していない。
2.その結果、持っている価値がマーケットから正当に評価されていない。
3.2は、例えるなら、100円玉が入った財布が70円で売られているようなもの。
4.ついては、株主が経営者にモノを言わないとダメだ。
弊社は、M&Aや金融と全く縁が無い。
今後もそれらを手がける気は全くない。
が、私は、村上氏の話は、「全くその通りだ」、即ち、「正論である」、と思った。
私は、村上氏に、「私は、あなたに、弊社の経営に参画してもらいたい気は無いが、このように正論を言い続けてくれるなら、弊社の社外取締役になって欲しい。」、と言った。
すると、村上氏は、「日本の社外取締役はおとなし過ぎる。自分は、多くの古い会社から嫌われているが、それでもよければ受ける。」、と言った。
私と村上氏との付き合いは、この時から始まった。
ちなみに、この時、私は、村上氏から、「(ソフトブレーンは)コンサルティングをしているが、クライアントの経営者自身が改革をしたいと思っていない場合、どのようにコンサルティングしているのか?」、と尋ねられた。
私は、「ウチは、そんな会社はコンサルしない」、と答えた。
経営者自身が改革する意思が無い会社を、外部が改革できる訳がない。
経営が変わらなければ、営業は変わらない。
私の著書、「やっぱり変だよ日本の営業」はかなり売れた。
トヨタでは、社員に配布されたらしい。
その本が売れたのはなぜか?
それは、多くの人が、私の指摘した点を、私と同様に、「変だ」と思っているからだ。
「営業のプロ」は、次のような行動指針を提唱し、他者に強要する。
1.営業は足で稼げ!
2.営業はGNP(=義理、人情、プレゼント)が大切!
3.営業は嫌われてから始まる!
「営業のプロ」が提唱するこれらの行動指針は、いずれも、概して、先輩が言ってきたこと、実行してきたことに過ぎない。
しかしながら、経営者の多くは、これらの行動指針を盲目的に受け入れ、「頑張れば、売れる!」、「売れないのは、頑張っていないから!」、と考えてしまう。
私は、「やっぱり変だよ日本の営業」を、「営業のプロ」ではなく、「営業の素人」の見地で書いた。
というのも、私は、「営業のプロ」の見地は「変だ」、と思っているからだ。
「営業のプロ」の行動指針のひとつに、「営業は嫌われてから始まる!」、がある。
これを、ビジネスではなく、私生活の見地で考えてみると、その是非がわかり易い。
例えば、あなたは、彼女をこれから口説こうとする際、嫌われてから口説くか?(笑)
そんなことはあり得ないはずだ。(笑)
つまり、この行動指針は非である、ということだ。
私は、自分で会社を起し、「普通に」営業をし、売上を伸ばしてきた。
とにかく、自分の目で見たこと、やったことを信じて、これまで経営を行ってきた。
そして、今言えるのは、「欲しくない人は、買わない」、ということだ。
「営業のプロ」は、よく「お客さまに誠意を尽くせ!(そうすれば、いずれのお客さまも買う!)」、と言う。
私は、これは違う、と思う。
「営業のプロ」が言う誠意が、プレゼントをすることなのか、何なのかよくわからない。
が、仮にそうだとするならば、私は、そんなことをするよりも、納品前に納品後のメンテナンスのことでも考えた方がよっぽど良い、と思う。
なぜ、こんな営業が行われているのか?
それは、社員に、無理(=欲しくないお客さまに、様々な手段を講じて、商品を売りつけること。社員に能力を超えた仕事を強いること。等)を強要する販売計画を押しつけているからだ。
無理をしなければ達成できない販売計画は、社員にとってプレッシャー以外の何物でもない。
こうしたことは、株式の上場を目前としている企業において、多く散見される。
私は、無理をしなければ達成できない販売計画を立てるくらいなら、上場などやめた方がいい、と思う。
ちなみに、私が初めて村上氏と会った時、彼は400億円運用していた。
今、彼は4,000億円運用している。
きっと、彼は自分に高いノルマを課し、それに向かって頑張ってきたのだろう。
だが、それは、無理なノルマだったのではないだろうか。
彼は、その無理なノルマを達成しようとする過程において、狂ってしまったのではないだろうか。
なぜ、経営者は売上を上げたがるのか?
その理由のひとつは、見栄を張りたいから、ではないだろうか。
上場して以来、私は、経営者が集まる夜の会合に招かれることが多くなった。
会合に招かれていつも不思議に感じるのは、座る場所が決まっている、ということだ。
座る場所は、自分が経営する企業の売上金額で決まる。
売上金額が多い順に、上座から座るのだ。
弊社のような、数十億程度しか売上が無い企業は、玄関に座らなければならなくなる。(笑)
本当に売上を上げたいのであれば、経営者は、率先して休み、文化的な生活をおくらなくてはいけない。
それと、社員に残業をさせてはいけない。
報道によると、カップルが一年間にセックスする回数は、最多国が150回である一方、日本は90回に過ぎない、という。
どうりで、日本は少子化が進む訳だ。(笑)
なぜ、日本のカップルは、一年間に90回しかセックスをしていないのか?
それは、残業に追われ、お互い一緒に居る時間が無いからだ。
なぜ、社員は残業に追われるのか?
それは、経営者が、売るための仕組みを創ることを怠っていることに加え、社員の多様性を受け入れず、「売れないのは、頑張りが足りないからだ!」、と一律に唱えているからだ。
そうした経営者は、社員にこう言っている。
1.あの(優秀)営業マンを見ろ!
2.なぜ、お前はあいつのようになれないのか?
3.頑張れ!
この経営者の主張には無理がある。
社員全員がトップセールスマンになれる訳がない。
社員は、各々異質だ。
馬は、いくら頑張っても、牛になれない。(笑)
またこのような経営者は、短絡的だ。
例えば、どこかで「提案営業がいい」と聞きつけると、すぐさま社員に、「明日から全員提案営業をやれ!」、と命じてしまう。
この命令にも無理がある。
全ての社員が、提案という業務プロセスに親和性の高い能力や資質を持っているとは限らない。
社員は、各々、異なる能力と資質を持ち、異なる業務を得意としている。
社員の中には、提案が得意な人も居れば、相手に良い印象を抱かせるのが得意な人も居れば、クレームの対応に長けている人も居る。
経営者は、社員の多様性を受け入れなくてはいけない。
そして、売るための仕組みを創り、各社員が、持ち前の能力や資質を活かして、やるべきこと(=果たすべき業務プロセス)を実行し得たか否かという事実をマネージしなければいけない。
売るための仕組みとは何か。
それは、一顧客に対して企業が行う、一気通貫した業務プロセスのことだ。
弊社は、顧客に、弊社の商品をご購入いただき、その後、メンテナンスをさせていただきながら、商品を再購入いただいている。
社員に求められる能力や資質は、業務プロセス毎に異なる。
なぜならば、業務プロセス毎に、顧客が求める事実や価値が異なるからだ。
弊社が顧客に対して行う業務プロセスは、提案以外にもたくさんある。
一人の社員が、それらを全て行う必要はない。
しかし、経営者の多くは、こう言っている。
1.全部一人でやれ!
2.なぜできない?
3.とにかく外へ出ろ!
4.訪問量を増やせ!
このように言われた社員の行き先は、ドトールだ。(笑)
多くの行動量と長時間の外出を強要されるため、いきおい残業時間は増え(=退社時刻が遅延し)、彼らのモチベーションは大きく下がる。
残業が多い企業はダメだ。
そういう企業に限って、社員は、時間を有効に活用していないし、やるべきことをやっていない。
残業が多い企業の社員の一日は、往々にして、次のような感じだ。
9時に出社。
色々なことをしていたら、もう14時。
そして、ふと気がつくと、24時。
最近、Hさんという30代の優秀な経理マンが、日立から弊社へ転じてくれた。
先日、私は、彼をランチに招待した。
彼から、前の職場は、とにかく残業が多かった、と聞かされた。
以下は、その件に関する、私と彼とのやり取りだ。
私「残業が多かったみたいだけど、仕事が多かったの?」
彼「そんなことはありません。」
私「では、なぜ、残業しなければいけなかったの?」
彼「直属の上司が帰らないからです。」
私「直属の上司が帰らないと、自分も帰れないの?」
彼「いえ、帰れないことはありません。」
私「じゃ、帰ればいいじゃない。(笑)」
彼「彼の前に帰ると、翌朝、すごい目つきで見られるのです。(笑)」
私「直属の上司のそのまた上司も残業しているの?」
彼「はい、大体居ます。」
私「あなたの二つ上の上司だから、結構いい年だよね?」
彼「はい、彼は55歳です。」
私「彼は、そんな夜遅くまで何をしているの?」
彼「何をやっているのかよくわかりませんが、マウスをぱたぱた動かしています。(笑)」
私「55歳にもなって役員にもなれないのでは、帰る所も無いのかもしれないね。(笑)」
成功している企業の社員は、出社する前、今日やるべきこと、即ち、果たすべき業務プロセスを完遂できるよう考えている。
こうした企業の経営者は、「やるべきことをやれば、帰れる」という仕組みを創り、社員を18時半に退社させている。
結果、会社は儲かり、社員に給与を多く支払う。
社員は、温かい懐で、退社後デートができ、モチベーションが上がる。
社員が遅刻したとする。
それは、決して良いことではない。
ただ、会社が社員に給与を支払うのは、遅刻せずに出社したことに対してではなく、会社と取り決めたやるべきことを全うし、結果、提供した価値に顧客が満足した、という事実に対してである。
ゆえに、その社員がやるべきことを全うし、提供した価値に顧客が満足した、という事実が確認できたなら、会社は、遅刻したことを過剰に取り上げることなく、彼に気持ちよく給与を払うべきだ。
私が日本の会社に勤めなかったのは、こういう会社がないからだ。
私のこうした考えに対し、異論を唱える経営者が居る。
ミサワホームは、社員を休ませない、という。
私は同社の経営者とケンカした。(笑)
社員には、「普通」に働いてもらう。
勿論、休みもちゃんと取ってもらう。
そして、成果を出させてやる。
これが、社員のモチベーションを上げる一番のやり方だ。
休みが取れない社員のモチベーションなど知れている。
「提案という業務プロセスができないなら、教育すればいい」、という経営者も居る。
私は、それを否定はしない。
が、明確にすべきは、社員を教育する、ということは、顧客に価値を提供するひとつの手段であって、目的ではない、ということだ。
社員を教育しなくても、社員が果たすべき業務プロセスを全うし、顧客に価値を提供できているならば、それでいいのではないか、と私は思う。
経営者は誤りを犯しやすい。
それは、なぜか?
それは、上に人が居ないからだ。
ゆえに、経営者は、絶えず、「それは正しいか?」と客観的に自問すると共に、自分へモノ言う人を見つけなければいけない。
同様に、経営者は、自らの考えを変えにくい。
それは、なぜか?
それは、自らの考えを変えるに足るオプションを持っていない、または、持とうとしていないからだ。
このことは、離婚で例えるとわかり易い。
なぜ、人は離婚するのか?
それは、現在のパートナー以外にもパートナーになる得る人が居るからだ。(笑)
人はオプションを持つと、自らを変えられる。
「自らを変えたい!」と真に思うならば、普段からオプションを考えたり、オプションをもたらしてくれる人を持つことだ。
成功している経営者は、みな「普通に」努力している。
私よりも努力していないものの、私よりも成功している経営者も居る。
でも、そんなものだ。(笑)
経営者は、「努力が全て」とか「努力をすれば成果は出る」、と考えてはいけない。
経営者が果たすべきは、社員が楽をして(=普通に努力して)成果が出る職場、社員の多様性が活かせる職場を創ることだ。
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宋さんは、経営問題解決手法として、個人営業から組織営業への転換を提唱しておられる。
私は、これまで、それは彼の優れた合理的思考力能力が創造した成果物である、と考えていた。
この考えは誤りだった。
それは宋さんが志向する「あるべき経営」、つまるところ、「あるべき人生」を達成する為のツールだった。
(※それらの詳細については、以下に記した<講話の骨子>や<印象に強く残った内容>をお読みいただきたい。)
やはり、経営手法であれ何であれ、「手段」は、自分の哲学や理念(=生きる「目的」)を達成する為のツールであり、それらを欠いたまま創造されることはないのだ。
”スピード社会”と言われて久しくなる。
スピードが偏重される為に、手段が目的として誤認される傾向が強まっている。
そんな折、宋さんの熱い講話は、私を強く覚醒してくれた。
宋さんに、感謝、感謝である。
★講話の骨子★
【1】経営が変われば、営業も変わる。
【2】経営を変えるために、経営者は、あらゆる物事を客観的に判断し、かつ、変えるに足るオプションが持てるよう、絶えず自問すると共に、それらを高確率で達成する仕組みを創らなければいけない。
【3】経営者は、個々の社員が、自身の能力や資質を活かしながら互いに連携し、「普通に」努力して成果が出る職場を創らなければいけない。
【4】3を達成するために、経営者は、顧客に高確率で価値を提供できる一気通貫した業務プロセス、即ち、売れる仕組み、を創ることに加え、社員が果たすべき業務プロセスを全うし得たか否か(=提供した価値に顧客が満足したか否か)という事実をマネージしなければいけない。
★印象に強く残った内容★
企業の多くは、人事が変だ
次期社長を、現在の社長が選ぶ。
そして、自分が選んだ人を社長にした後、自分は会長になる。
次期会長を、現在の会長が選ぶ。
そして、自分が選んだ人を会長にした後、自分は名誉顧問になる。
これらは申し送りの人事で、不公正も甚だしい。
なぜ、企業はこうした変な人事をしているのか?
それは、内部統制が公正に機能していないからだ。
企業が客観性を担保するのは難しい。
客観の「観」という字にはどういう意味があるか?
「観」は、「なんとなく見る」、即ち、「思い込みを持たずに見る」、という意味だ。
物事を客観的に見、正しく判断する。
これは、企業経営だけでなく、あらゆることにとって重要だ。
が、企業は、それができない。
人事ひとつを見ても、それがすぐにわかる。
弊社は、村上世彰氏に社外取締役をしてもらっていた。
社外取締役の多くが経営監視機能を果たしていない中、私が彼を社外取締役として招いたのはなぜか?
それは、彼に弊社を客観的に見てもらいたかったからだ。
彼は、相手が誰であろうとも、正論を言う。
私は、彼の正論に耐えられるようになれば、弊社はより強くなる、と考えたのだ。
私が村上氏を知ったのは、彼からの一本の電話がきっかけだった。
昨年(2005年)の2月25日、彼は、私との面会を求めて、弊社へ電話をしてきた。
その電話は、最初、弊社のCFOがとった。
その者は、村上氏から「おまえでは話にならん」と言われた。
彼はそのことを涙ぐんで私に報告し、私は彼と面会することになった。
村上氏は、私にこう言った。
1.企業の多くは、内部統制が機能していない。
2.その結果、持っている価値がマーケットから正当に評価されていない。
3.2は、例えるなら、100円玉が入った財布が70円で売られているようなもの。
4.ついては、株主が経営者にモノを言わないとダメだ。
弊社は、M&Aや金融と全く縁が無い。
今後もそれらを手がける気は全くない。
が、私は、村上氏の話は、「全くその通りだ」、即ち、「正論である」、と思った。
私は、村上氏に、「私は、あなたに、弊社の経営に参画してもらいたい気は無いが、このように正論を言い続けてくれるなら、弊社の社外取締役になって欲しい。」、と言った。
すると、村上氏は、「日本の社外取締役はおとなし過ぎる。自分は、多くの古い会社から嫌われているが、それでもよければ受ける。」、と言った。
私と村上氏との付き合いは、この時から始まった。
ちなみに、この時、私は、村上氏から、「(ソフトブレーンは)コンサルティングをしているが、クライアントの経営者自身が改革をしたいと思っていない場合、どのようにコンサルティングしているのか?」、と尋ねられた。
私は、「ウチは、そんな会社はコンサルしない」、と答えた。
経営者自身が改革する意思が無い会社を、外部が改革できる訳がない。
経営が変わらなければ、営業は変わらない。
私の著書、「やっぱり変だよ日本の営業」はかなり売れた。
トヨタでは、社員に配布されたらしい。
その本が売れたのはなぜか?
それは、多くの人が、私の指摘した点を、私と同様に、「変だ」と思っているからだ。
「営業のプロ」は、次のような行動指針を提唱し、他者に強要する。
1.営業は足で稼げ!
2.営業はGNP(=義理、人情、プレゼント)が大切!
3.営業は嫌われてから始まる!
「営業のプロ」が提唱するこれらの行動指針は、いずれも、概して、先輩が言ってきたこと、実行してきたことに過ぎない。
しかしながら、経営者の多くは、これらの行動指針を盲目的に受け入れ、「頑張れば、売れる!」、「売れないのは、頑張っていないから!」、と考えてしまう。
私は、「やっぱり変だよ日本の営業」を、「営業のプロ」ではなく、「営業の素人」の見地で書いた。
というのも、私は、「営業のプロ」の見地は「変だ」、と思っているからだ。
「営業のプロ」の行動指針のひとつに、「営業は嫌われてから始まる!」、がある。
これを、ビジネスではなく、私生活の見地で考えてみると、その是非がわかり易い。
例えば、あなたは、彼女をこれから口説こうとする際、嫌われてから口説くか?(笑)
そんなことはあり得ないはずだ。(笑)
つまり、この行動指針は非である、ということだ。
私は、自分で会社を起し、「普通に」営業をし、売上を伸ばしてきた。
とにかく、自分の目で見たこと、やったことを信じて、これまで経営を行ってきた。
そして、今言えるのは、「欲しくない人は、買わない」、ということだ。
「営業のプロ」は、よく「お客さまに誠意を尽くせ!(そうすれば、いずれのお客さまも買う!)」、と言う。
私は、これは違う、と思う。
「営業のプロ」が言う誠意が、プレゼントをすることなのか、何なのかよくわからない。
が、仮にそうだとするならば、私は、そんなことをするよりも、納品前に納品後のメンテナンスのことでも考えた方がよっぽど良い、と思う。
なぜ、こんな営業が行われているのか?
それは、社員に、無理(=欲しくないお客さまに、様々な手段を講じて、商品を売りつけること。社員に能力を超えた仕事を強いること。等)を強要する販売計画を押しつけているからだ。
無理をしなければ達成できない販売計画は、社員にとってプレッシャー以外の何物でもない。
こうしたことは、株式の上場を目前としている企業において、多く散見される。
私は、無理をしなければ達成できない販売計画を立てるくらいなら、上場などやめた方がいい、と思う。
ちなみに、私が初めて村上氏と会った時、彼は400億円運用していた。
今、彼は4,000億円運用している。
きっと、彼は自分に高いノルマを課し、それに向かって頑張ってきたのだろう。
だが、それは、無理なノルマだったのではないだろうか。
彼は、その無理なノルマを達成しようとする過程において、狂ってしまったのではないだろうか。
なぜ、経営者は売上を上げたがるのか?
その理由のひとつは、見栄を張りたいから、ではないだろうか。
上場して以来、私は、経営者が集まる夜の会合に招かれることが多くなった。
会合に招かれていつも不思議に感じるのは、座る場所が決まっている、ということだ。
座る場所は、自分が経営する企業の売上金額で決まる。
売上金額が多い順に、上座から座るのだ。
弊社のような、数十億程度しか売上が無い企業は、玄関に座らなければならなくなる。(笑)
本当に売上を上げたいのであれば、経営者は、率先して休み、文化的な生活をおくらなくてはいけない。
それと、社員に残業をさせてはいけない。
報道によると、カップルが一年間にセックスする回数は、最多国が150回である一方、日本は90回に過ぎない、という。
どうりで、日本は少子化が進む訳だ。(笑)
なぜ、日本のカップルは、一年間に90回しかセックスをしていないのか?
それは、残業に追われ、お互い一緒に居る時間が無いからだ。
なぜ、社員は残業に追われるのか?
それは、経営者が、売るための仕組みを創ることを怠っていることに加え、社員の多様性を受け入れず、「売れないのは、頑張りが足りないからだ!」、と一律に唱えているからだ。
そうした経営者は、社員にこう言っている。
1.あの(優秀)営業マンを見ろ!
2.なぜ、お前はあいつのようになれないのか?
3.頑張れ!
この経営者の主張には無理がある。
社員全員がトップセールスマンになれる訳がない。
社員は、各々異質だ。
馬は、いくら頑張っても、牛になれない。(笑)
またこのような経営者は、短絡的だ。
例えば、どこかで「提案営業がいい」と聞きつけると、すぐさま社員に、「明日から全員提案営業をやれ!」、と命じてしまう。
この命令にも無理がある。
全ての社員が、提案という業務プロセスに親和性の高い能力や資質を持っているとは限らない。
社員は、各々、異なる能力と資質を持ち、異なる業務を得意としている。
社員の中には、提案が得意な人も居れば、相手に良い印象を抱かせるのが得意な人も居れば、クレームの対応に長けている人も居る。
経営者は、社員の多様性を受け入れなくてはいけない。
そして、売るための仕組みを創り、各社員が、持ち前の能力や資質を活かして、やるべきこと(=果たすべき業務プロセス)を実行し得たか否かという事実をマネージしなければいけない。
売るための仕組みとは何か。
それは、一顧客に対して企業が行う、一気通貫した業務プロセスのことだ。
弊社は、顧客に、弊社の商品をご購入いただき、その後、メンテナンスをさせていただきながら、商品を再購入いただいている。
社員に求められる能力や資質は、業務プロセス毎に異なる。
なぜならば、業務プロセス毎に、顧客が求める事実や価値が異なるからだ。
弊社が顧客に対して行う業務プロセスは、提案以外にもたくさんある。
一人の社員が、それらを全て行う必要はない。
しかし、経営者の多くは、こう言っている。
1.全部一人でやれ!
2.なぜできない?
3.とにかく外へ出ろ!
4.訪問量を増やせ!
このように言われた社員の行き先は、ドトールだ。(笑)
多くの行動量と長時間の外出を強要されるため、いきおい残業時間は増え(=退社時刻が遅延し)、彼らのモチベーションは大きく下がる。
残業が多い企業はダメだ。
そういう企業に限って、社員は、時間を有効に活用していないし、やるべきことをやっていない。
残業が多い企業の社員の一日は、往々にして、次のような感じだ。
9時に出社。
色々なことをしていたら、もう14時。
そして、ふと気がつくと、24時。
最近、Hさんという30代の優秀な経理マンが、日立から弊社へ転じてくれた。
先日、私は、彼をランチに招待した。
彼から、前の職場は、とにかく残業が多かった、と聞かされた。
以下は、その件に関する、私と彼とのやり取りだ。
私「残業が多かったみたいだけど、仕事が多かったの?」
彼「そんなことはありません。」
私「では、なぜ、残業しなければいけなかったの?」
彼「直属の上司が帰らないからです。」
私「直属の上司が帰らないと、自分も帰れないの?」
彼「いえ、帰れないことはありません。」
私「じゃ、帰ればいいじゃない。(笑)」
彼「彼の前に帰ると、翌朝、すごい目つきで見られるのです。(笑)」
私「直属の上司のそのまた上司も残業しているの?」
彼「はい、大体居ます。」
私「あなたの二つ上の上司だから、結構いい年だよね?」
彼「はい、彼は55歳です。」
私「彼は、そんな夜遅くまで何をしているの?」
彼「何をやっているのかよくわかりませんが、マウスをぱたぱた動かしています。(笑)」
私「55歳にもなって役員にもなれないのでは、帰る所も無いのかもしれないね。(笑)」
成功している企業の社員は、出社する前、今日やるべきこと、即ち、果たすべき業務プロセスを完遂できるよう考えている。
こうした企業の経営者は、「やるべきことをやれば、帰れる」という仕組みを創り、社員を18時半に退社させている。
結果、会社は儲かり、社員に給与を多く支払う。
社員は、温かい懐で、退社後デートができ、モチベーションが上がる。
社員が遅刻したとする。
それは、決して良いことではない。
ただ、会社が社員に給与を支払うのは、遅刻せずに出社したことに対してではなく、会社と取り決めたやるべきことを全うし、結果、提供した価値に顧客が満足した、という事実に対してである。
ゆえに、その社員がやるべきことを全うし、提供した価値に顧客が満足した、という事実が確認できたなら、会社は、遅刻したことを過剰に取り上げることなく、彼に気持ちよく給与を払うべきだ。
私が日本の会社に勤めなかったのは、こういう会社がないからだ。
私のこうした考えに対し、異論を唱える経営者が居る。
ミサワホームは、社員を休ませない、という。
私は同社の経営者とケンカした。(笑)
社員には、「普通」に働いてもらう。
勿論、休みもちゃんと取ってもらう。
そして、成果を出させてやる。
これが、社員のモチベーションを上げる一番のやり方だ。
休みが取れない社員のモチベーションなど知れている。
「提案という業務プロセスができないなら、教育すればいい」、という経営者も居る。
私は、それを否定はしない。
が、明確にすべきは、社員を教育する、ということは、顧客に価値を提供するひとつの手段であって、目的ではない、ということだ。
社員を教育しなくても、社員が果たすべき業務プロセスを全うし、顧客に価値を提供できているならば、それでいいのではないか、と私は思う。
経営者は誤りを犯しやすい。
それは、なぜか?
それは、上に人が居ないからだ。
ゆえに、経営者は、絶えず、「それは正しいか?」と客観的に自問すると共に、自分へモノ言う人を見つけなければいけない。
同様に、経営者は、自らの考えを変えにくい。
それは、なぜか?
それは、自らの考えを変えるに足るオプションを持っていない、または、持とうとしていないからだ。
このことは、離婚で例えるとわかり易い。
なぜ、人は離婚するのか?
それは、現在のパートナー以外にもパートナーになる得る人が居るからだ。(笑)
人はオプションを持つと、自らを変えられる。
「自らを変えたい!」と真に思うならば、普段からオプションを考えたり、オプションをもたらしてくれる人を持つことだ。
成功している経営者は、みな「普通に」努力している。
私よりも努力していないものの、私よりも成功している経営者も居る。
でも、そんなものだ。(笑)
経営者は、「努力が全て」とか「努力をすれば成果は出る」、と考えてはいけない。
経営者が果たすべきは、社員が楽をして(=普通に努力して)成果が出る職場、社員の多様性が活かせる職場を創ることだ。
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