2006年07月11日

「巨象も踊る」(著・ルイス・ガースナー)を読むの巻

IBMの元CEO、ルイス・ガースナーさんが書いた「巨象も踊る」(日本経済新聞)を読んだ。
これは、彼が、CEOとして同社再生のリーダーシップをとった葯10年間に、何を問題として認識し、何を解決策として実行したかについて、網羅的かつ率直的に述べられている本だ。

甚だ恐縮だが、この本に目新しい内容は無い。
そのことは、ルイス・ガースナーさん自らが文中で述べている。
が、その分、ビジネスを成功させるにはいかに原理原則をやり切ることが大事か、強く思い知らされた。

もちろん、認識を深めたところは多々あった。
とりわけ深まった認識は以下の二つだ。
【1】手段は、時と共に目的が忘れられ、それ自身が目的となり易い。
<→「手段の目的化を防ぐ」には、「”その”手段は本来どのような目的を達成する為に創られたのか?」を自問自答する習慣を持つことに加え、”その”手段の実行結果が本来の目的を達成しているか否か評価する機会を定例的に持つことが重要、と私は感がる。>

【2】、ビジネスの成否を決めるのは、「いかに優れた戦略やプロセスを策定するか?」、よりも、「とかく単調になり易いそれらをいかに実行し抜くか?」にかかっている。
<→「実行し抜く」には、プロセスと(途中)結果をタイムリーに評価しながらプロセスを(適宜)改善することに加え、「実行し抜く」に足る明確なインセンティブ(=誘引)を自身に、そして、リーダーであればメンバーにも与えることが重要である、と私は考える。>

以下は、上述の内容を再認識させてくれた該当箇所だ。
休憩時にでもお読みいただくと共に、得心及び共感するところがあるようなら、同書をご一読されるようお勧めしたい。





★「基本信条」
P244
(前略)
この価値観は長年にわたってうまく機能していた。組織は成功を収めるほど、偉大さをもたらしてきたものをルールの形で定着させようとする。これは良い動きになりうる。組織全体で学ぶ動き、知識をうまく伝える動きを作り出し、「われわれのやり方」をはっきりと把握できるようになる。しかし、世界は変化する。いずれ、ルールや指針や慣習が、組織の本来の任務との関連を失っていくのは避けられない。
この点を余すことなく示しているのが、服装規定だ。ビジネスの世界でよく知られていた点だが、IBMでは営業担当者はもちろん、社員が全員、きわめてフォーマルな服を着ていた。トーマス・ワトソンがこの規則を作ったとき、営業担当者が訪問する経営幹部がどのような服装だったかというと、ダーク・スーツと白いシャツだった。つまり、ワトソンはきわめて賢明な指示を出したのだ。顧客に敬意を払い、それにふさわしい服装にするようにと。
しかし、長年のうちに、顧客の服装も変わった。企業で情報技術関連の購買を担当する幹部がブルーのスーツと白いシャツを着ることはめったになくなった。ところが、ワトソンが顧客に合わせるよう求めた点は忘れられ、服装規定だけがひとり歩きをするようになった。1995年にこの服装規定を廃止したとき、異例なほどマスコミの注目を集めた。大きな動きが起こる前兆だとする意見もあった。実際には、これはわたしが下した決定のなかでも、じつに簡単なものであった。というより、下さなかったと言うべきだろう。これは「決定」ではなかった。新たな服装規定は作らなかった。ワトソンの英知に戻ってその日の状況に合わせ、だれに会うのか(顧客か、政府の指導者か、研究所の同僚か)を考えた服装にするよう求めだだけだ。
成功をもたらした文化をルールにする動きは、価値観と行動様式をめぐって起こる「死後硬直」とも言えるものだ。成功を収めてきた組織に特有の問題であり、ときには深刻な影響をもたらしかねない問題である。

★「評価基準が行動基準」
P304
マッキンゼーに勤めていたとき、同僚も私も失望を繰り返していた点がある。大量の人員と何百万ドルものコストをかけて堅実で効果的な戦略を策定しても、その時間と資金をすべて無駄にする企業が後を絶たなかったからだ。経営者に組織全体の変革を指導する意思がないために、戦略が効果をあげないのだ。あるいは、組織全体で変革が起こっているはずだと考えていて、実際に何が起こっているのかを評価しない経営社も少なくない。
たぶん、わたしが見てきたなかで経営幹部の最大の間違いは、期待と評価の矛盾を放置することである。わたしは文字通り何百回もこういう様子を見てきた。堅実ですぐれた戦略が会議で提案され、経営者が「よし、これでいこう」と同意する。しっかりした文書にまとめられ、ときには素晴らしいの一言につきる戦略文書が組織全体に配布される。ビデオやイントラネット、会議で会社の新たな方向、素晴らしい方向が興奮と情熱と共に伝えられる。だが、部下は、上司の期待する行動ではなく、上司の評価で良い点がつく行動をとることを理解しない経営幹部がきわめて多い。
実行とは、戦略を行動計画に翻訳し、その結果を評価することである。詳細にわたるもの、複雑なものであり、自社がいまどの位置にあり、目標との間の距離がどれだけあるか深く理解していなければならない。計画できる目標を設定し、各人が目標達成に責任を負うようにする必要がある。
そして何よりも、組織がそれまでとは違うことを実行し、それまでとは違う点を重視し、それまでにもっていなかったスキルを獲得し、顧客、仕入れ先、販売会社との日常業務でそれまでより素早く、効率的に動く必要があるのがふつうだ。どれひとつとっても変革が必要だ。だが企業は変わるのを嫌がる。個々人が変わるのを嫌がるからだ。
(中略)
実行はきわめて困難な仕事であり、組織が1メートルずつ、1キロずつ前進し、中間目標をひとつずつ達成していくようにする単調な日常業務である。つねに責任を負うよう要求し、目標を達成できない場合には、素早く手を打たなければならない。幹部には実績を報告するよう求め、成功と失敗を説明するよう求めなければならない。とくに重要な点だが、大雨を正しく予想しただけで功績としてはならない。方舟を作ってはじめて功績になる。
実行面で秀でるためには、組織に三つの要因が必要だとわたしは確信している。世界クラスのプロセス、戦略の明確さ、好業績を育む企業文化の三つである。


巨象も踊る
ルイス・V・ガースナー
日本経済新聞社
2002-12-02




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