2008年01月08日
守屋淳さん著「孫子・戦略・クラウゼヴィッツ―その活用の方程式」を読むの巻
「○○戦略」。
「戦略的○○」。
こうした言葉を見かける機会は、ここ十年で飛躍的に増えた。
なぜか。
それは、「今、そうした言葉が衆目をひけるから」、だ。
日本は成熟した。
先人が創った仕組&文脈は、もうアテにならない。
意識的か無意識的かは別にして、あらゆる人が、「自分がハッピーになるための」戦略を求めている。
Sさんの紹介でご縁を頂戴した守屋淳さんが、昨秋、「孫子・戦略・クラウゼヴィッツ―その活用の方程式」という書籍を上辞なさった。
歴史や古典に疎い私は、本書を年末年始の課題図書として読んだ。
誤解を恐れずに言えば、本書は、戦略「指南」書ではなく、戦略「心得」書だ。
「自分だけがハッピーになるための」戦略を盲目的に選択&実行することがいかに危ういか等々、戦略を最大活用するためにわきまえておくべきことや考えが、例示を交えながら詳解されている。
とかく「how to」一辺倒になりがちな戦略論を、読者に懐疑やストレスを与えることなく「for what」へ昇華させておられるところに、守屋さんの文才とお人柄を感じた。
「戦略的○○」。
こうした言葉を見かける機会は、ここ十年で飛躍的に増えた。
なぜか。
それは、「今、そうした言葉が衆目をひけるから」、だ。
日本は成熟した。
先人が創った仕組&文脈は、もうアテにならない。
意識的か無意識的かは別にして、あらゆる人が、「自分がハッピーになるための」戦略を求めている。
Sさんの紹介でご縁を頂戴した守屋淳さんが、昨秋、「孫子・戦略・クラウゼヴィッツ―その活用の方程式」という書籍を上辞なさった。
歴史や古典に疎い私は、本書を年末年始の課題図書として読んだ。
誤解を恐れずに言えば、本書は、戦略「指南」書ではなく、戦略「心得」書だ。
「自分だけがハッピーになるための」戦略を盲目的に選択&実行することがいかに危ういか等々、戦略を最大活用するためにわきまえておくべきことや考えが、例示を交えながら詳解されている。
とかく「how to」一辺倒になりがちな戦略論を、読者に懐疑やストレスを与えることなく「for what」へ昇華させておられるところに、守屋さんの文才とお人柄を感じた。
不肖私は、「不敗」の考えを含む以下の箇所に強い共感&触発を覚えた。
【3】の(2)と(3)はいずれも(1)に属するのではないかという不遜な疑問(※)もあったりするが、それは次回会食時のツマにできれば幸いだ。(笑)
(※)(2)の例として元F1チャンピオンのアラン・プロストが挙げられていたが、私は次のように認識していたりする。「アラン・プロストにとって、不敗の維持は第一目標ではない。彼は、勝利を得るのに見合わないと判断したリスクを絶対に甘受しない(=マシンや自分に過度な負担&危険が求められる操作&運転は絶対にしない)が、第一目標は勝利である。不敗維持力が高次元であったのは、第一目標に勝利を掲げていたが故の結果である。」
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【1】戦いには、「やり直しが利くもの」と「やり直しが利かないもの」がある。(P31)
【2】戦いの結果には、「勝ち」と「負け」の他、「不敗(=お互い必死で努力を重ねた、どちらが勝ったとも言えない状態のこと)」もある(→孫子は、戦争はやり直しが利かないものと考え、敵がミスを犯すのを待つ時は、最悪でも不敗を守れる態勢とセットで考えていた)。(P67)
【3】不敗から勝利できるか否かは相手次第であり、このことから戦略には、以下の三つのパターンがあることがわかる。
(1)最初から勝利を目指すべきもの
(2)不敗を維持していればよいもの
(3)不敗を守って勝利へ移行することを目指すもの(P69)
【4】戦争とは、しょせん、だまし合いに過ぎない。 ― 兵は脆道なり。(P108)
【5】脆道を成立させるには、裏の読みあいにストッパーをかけることが不可欠であり、それには、主導権を握ること(敵は不自由な態勢、味方は自由な態勢をとること)が有効である。(P121)
【6】相手から主導権を奪うには、自分に対し「信頼」「信服」を醸成させるほか、「損得勘定」や「恐怖心」を刺激することが非常に有効である。(P123)
【7】局面が複雑だったり、必要な情報が乏しく、だれもが判断をまちがえやすい状況なら、さらに難解な局面にした上で、相手に手を渡す。当然相手がまちがえたり、悪手を打つ可能性が高まってくる。そのミスをついて勝っていく。(P200)
【8】やり直しが利く戦の戦略は、【7】のほか以下の二つに集約される。
(1)比重の軽い負けをうまくいかす。(→相手の油断を誘発したり、自身の成長を促す)
(2)相手の勢いをコントロールする。(P204)
【9】戦略が生まれる土壌である「競争」の「競」と「争」は全く違った内容を持っている。前者は、マラソンや企業の研究開発など「パイが広げられる」競争であり、後者は、戦争、ボクシングなど「枠の決まった中でのパイの取り合い」である。(P236)
【10】「競」の状況でもっとも必要な要素は「己に克つ」である。誰よりもすばらしい成績をあげれば勝てる状況であるなら、まず自分の実力を高め、それを本番で発揮することが先決だ。よりくわしくいえば、まず戦う前の準備の段階では、怠け心や挫折しそうな心に打ち克ってきびしい修練に耐え、実力を向上させることが「己に克つ」の意味になる。さらに、実践の場では、恐怖心やプレッシャーをはねのけて自分の実力を発揮したり、「勘」や「直感」をひらめかせ、「より少なくまちがった判断」を下すことが、本番における「己に克つ」ことの表れになる。(P238)
【11】本来、戦略というものがもっとも必要とされるのは「争」の場面になる。なぜなら、もともと戦争で勝つ(相手を損なう)ためのノウハウを「戦略」と表現していたからだ。(P237)
【12】『孫子』に「彼を知り己を知れば、百戦して危うからず」という言葉があるが、よくいわれるのが、真に知りがたいのは己の方、という観点だ。人は他人のことなら客観的にみられるが、自分自身は客観的にみることができない。現実に揉まれ、他人と自分とを比較しないと、正しい自分の姿はつかめないのだ。(P243)
【13】競争や争いといった局面では、その質を分析していくと、「己を知る(=そこで戦うかを決める局面)」「己に克つ(=あるジャンルにおいて、すでに決められた評価基準や、第三者の支持をめぐる「競」の局面)」「戦略(=お互いを損ない合う「争」の局面)」という三要素が重要である。(P246)
【14】すべての戦略には使うべき状況がある(=やり直しの利く度合いとライバルの数に依存する。あらゆる状況に通じる戦略は無い。)。(P249)
【15】戦略には、その成り立ちからくる限界がある。それは、戦略が結局、「個の利益の追求」に偏ってしまうということだ。「公の利益」「全体の繁栄」といった思考とは相容れない面をもっている。この特徴がもっとも問題になってくるのは、実社会における人や組織の振舞い方だ。「自己の利益しか考えない」「全体を顧みない」と公言し、実践する人や組織と、だれしも長い協調関係や信頼関係を築こうとは思わない。このため、戦略は「勝つ」道具にはなっても、「勝ちつづける」「繁栄しつづける」ための道具にはなりにくい面を、その性質上もたざるをえないのだ。(P258)
【16】もし、人や組織が勝ち続けたい、ないしは負けない状態を続けたいと思うなら、大儀や理念―いずれも私益より公益を優先する思想―を示し、周囲から支持されることが必要となる。これをひと言でいえば、「人や組織は生き残らなければならない。同時に、なぜ生き残るかを示さなければならない」となる。生き残るための道具が「戦略」「己を知る」「己に克つ」であり、「大儀」「理念」が生き残る指標となる。前者は勝利を生み、後者は周囲の支持や愛着を生む。(P259)
【17】人の場合も同じだが、現実にさらされない万能感に毒された人物より、現実に揉まれて自分のできること、できないことをわきまえた人のほうが、成果が上がりやすい面は確実にあるのだ。また、この観点からは、他社での失敗事例が積み重なった戦略こそ、逆に使い出のある状態に熟成したと考えられるケースの存在も示唆する。結局、きびしい現実に揉まれないかぎり、自分自身も、ビジネスも、そして戦略自体さえ、強みと弱み、落ち着きどころはわからないものなのだ。(P262)
【18】成果の出る問題設定を行い、正しい答えを選ぶには、「己を知る」ことが欠かせない。「自分の現状」「現在と未来にわたって求めるもの」をよくよく吟味しないと、実りある選択ができなくなる。それには、現実に揉まれ、「現状にその問いはほんとうにあっているのか」「正しい問いとは何か」を常に問い直す能力が必要だ。(P263)
【19】↑は、戦略についても全く同じ面がある。「勝利はほんとうに必要か」という問いを発することによって、「不敗」や「不敗からの勝利」といった道筋を発見したのが『孫子』という古典だったのだ。また、「ほんとうに、お互いを損ない合うことは必要なのか」と問うことによって、「戦略が有効な状況・有効ではない状況」「己に克つべき状況」「己を知るべき状況」といった競争における三つの局面を、はじめて視野に入れられるようになる。現状とは何か、そこで有効な問題設定とは何か、これを掘り下げることで、「戦略の要・不要」「使うべき戦略とは何か」がはじめてみえてくる。(P263)
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【3】の(2)と(3)はいずれも(1)に属するのではないかという不遜な疑問(※)もあったりするが、それは次回会食時のツマにできれば幸いだ。(笑)
(※)(2)の例として元F1チャンピオンのアラン・プロストが挙げられていたが、私は次のように認識していたりする。「アラン・プロストにとって、不敗の維持は第一目標ではない。彼は、勝利を得るのに見合わないと判断したリスクを絶対に甘受しない(=マシンや自分に過度な負担&危険が求められる操作&運転は絶対にしない)が、第一目標は勝利である。不敗維持力が高次元であったのは、第一目標に勝利を掲げていたが故の結果である。」
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【1】戦いには、「やり直しが利くもの」と「やり直しが利かないもの」がある。(P31)
【2】戦いの結果には、「勝ち」と「負け」の他、「不敗(=お互い必死で努力を重ねた、どちらが勝ったとも言えない状態のこと)」もある(→孫子は、戦争はやり直しが利かないものと考え、敵がミスを犯すのを待つ時は、最悪でも不敗を守れる態勢とセットで考えていた)。(P67)
【3】不敗から勝利できるか否かは相手次第であり、このことから戦略には、以下の三つのパターンがあることがわかる。
(1)最初から勝利を目指すべきもの
(2)不敗を維持していればよいもの
(3)不敗を守って勝利へ移行することを目指すもの(P69)
【4】戦争とは、しょせん、だまし合いに過ぎない。 ― 兵は脆道なり。(P108)
【5】脆道を成立させるには、裏の読みあいにストッパーをかけることが不可欠であり、それには、主導権を握ること(敵は不自由な態勢、味方は自由な態勢をとること)が有効である。(P121)
【6】相手から主導権を奪うには、自分に対し「信頼」「信服」を醸成させるほか、「損得勘定」や「恐怖心」を刺激することが非常に有効である。(P123)
【7】局面が複雑だったり、必要な情報が乏しく、だれもが判断をまちがえやすい状況なら、さらに難解な局面にした上で、相手に手を渡す。当然相手がまちがえたり、悪手を打つ可能性が高まってくる。そのミスをついて勝っていく。(P200)
【8】やり直しが利く戦の戦略は、【7】のほか以下の二つに集約される。
(1)比重の軽い負けをうまくいかす。(→相手の油断を誘発したり、自身の成長を促す)
(2)相手の勢いをコントロールする。(P204)
【9】戦略が生まれる土壌である「競争」の「競」と「争」は全く違った内容を持っている。前者は、マラソンや企業の研究開発など「パイが広げられる」競争であり、後者は、戦争、ボクシングなど「枠の決まった中でのパイの取り合い」である。(P236)
【10】「競」の状況でもっとも必要な要素は「己に克つ」である。誰よりもすばらしい成績をあげれば勝てる状況であるなら、まず自分の実力を高め、それを本番で発揮することが先決だ。よりくわしくいえば、まず戦う前の準備の段階では、怠け心や挫折しそうな心に打ち克ってきびしい修練に耐え、実力を向上させることが「己に克つ」の意味になる。さらに、実践の場では、恐怖心やプレッシャーをはねのけて自分の実力を発揮したり、「勘」や「直感」をひらめかせ、「より少なくまちがった判断」を下すことが、本番における「己に克つ」ことの表れになる。(P238)
【11】本来、戦略というものがもっとも必要とされるのは「争」の場面になる。なぜなら、もともと戦争で勝つ(相手を損なう)ためのノウハウを「戦略」と表現していたからだ。(P237)
【12】『孫子』に「彼を知り己を知れば、百戦して危うからず」という言葉があるが、よくいわれるのが、真に知りがたいのは己の方、という観点だ。人は他人のことなら客観的にみられるが、自分自身は客観的にみることができない。現実に揉まれ、他人と自分とを比較しないと、正しい自分の姿はつかめないのだ。(P243)
【13】競争や争いといった局面では、その質を分析していくと、「己を知る(=そこで戦うかを決める局面)」「己に克つ(=あるジャンルにおいて、すでに決められた評価基準や、第三者の支持をめぐる「競」の局面)」「戦略(=お互いを損ない合う「争」の局面)」という三要素が重要である。(P246)
【14】すべての戦略には使うべき状況がある(=やり直しの利く度合いとライバルの数に依存する。あらゆる状況に通じる戦略は無い。)。(P249)
【15】戦略には、その成り立ちからくる限界がある。それは、戦略が結局、「個の利益の追求」に偏ってしまうということだ。「公の利益」「全体の繁栄」といった思考とは相容れない面をもっている。この特徴がもっとも問題になってくるのは、実社会における人や組織の振舞い方だ。「自己の利益しか考えない」「全体を顧みない」と公言し、実践する人や組織と、だれしも長い協調関係や信頼関係を築こうとは思わない。このため、戦略は「勝つ」道具にはなっても、「勝ちつづける」「繁栄しつづける」ための道具にはなりにくい面を、その性質上もたざるをえないのだ。(P258)
【16】もし、人や組織が勝ち続けたい、ないしは負けない状態を続けたいと思うなら、大儀や理念―いずれも私益より公益を優先する思想―を示し、周囲から支持されることが必要となる。これをひと言でいえば、「人や組織は生き残らなければならない。同時に、なぜ生き残るかを示さなければならない」となる。生き残るための道具が「戦略」「己を知る」「己に克つ」であり、「大儀」「理念」が生き残る指標となる。前者は勝利を生み、後者は周囲の支持や愛着を生む。(P259)
【17】人の場合も同じだが、現実にさらされない万能感に毒された人物より、現実に揉まれて自分のできること、できないことをわきまえた人のほうが、成果が上がりやすい面は確実にあるのだ。また、この観点からは、他社での失敗事例が積み重なった戦略こそ、逆に使い出のある状態に熟成したと考えられるケースの存在も示唆する。結局、きびしい現実に揉まれないかぎり、自分自身も、ビジネスも、そして戦略自体さえ、強みと弱み、落ち着きどころはわからないものなのだ。(P262)
【18】成果の出る問題設定を行い、正しい答えを選ぶには、「己を知る」ことが欠かせない。「自分の現状」「現在と未来にわたって求めるもの」をよくよく吟味しないと、実りある選択ができなくなる。それには、現実に揉まれ、「現状にその問いはほんとうにあっているのか」「正しい問いとは何か」を常に問い直す能力が必要だ。(P263)
【19】↑は、戦略についても全く同じ面がある。「勝利はほんとうに必要か」という問いを発することによって、「不敗」や「不敗からの勝利」といった道筋を発見したのが『孫子』という古典だったのだ。また、「ほんとうに、お互いを損ない合うことは必要なのか」と問うことによって、「戦略が有効な状況・有効ではない状況」「己に克つべき状況」「己を知るべき状況」といった競争における三つの局面を、はじめて視野に入れられるようになる。現状とは何か、そこで有効な問題設定とは何か、これを掘り下げることで、「戦略の要・不要」「使うべき戦略とは何か」がはじめてみえてくる。(P263)
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この記事へのコメント
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします(礼)。
「なるほど〜」と、思いながら読みました。
戦争とビジネスを同じ土台で考えるのは、よくある話しですが、ここに挙げられた例は、戦略的心得を解りやすく解説していると思いました。
ただ、いわゆるサラリーマンで、歯車的思想で仕事をしている人には、理解出来ないかもしれませんネ。
経営側、もしくは、マネジメントする側におかれた人なら、興味深い内容だと思います。
読んでいて、何か自分が知ってる人の行動と、よく似ているなと・・・。
それが思い出せなくて、もどかしいのですが(苦笑)。
∠(`・ω・´)敬礼!。
Posted by やたすけ at 2008年01月09日 01:59
やたすけさん
あけまして、おめでとうございます。
本年もご支援のほどよろしくお願い申し上げます。(敬礼)
> 経営側、もしくは、マネジメントする側におかれた人なら、興味深い内容だと思います。
ということは、やたすけさんも、いよいよマネージャーになってきたということですね〜。(笑)
とても良いことです!
本年がやたすけさんにとって飛躍の年になるよう祈念しています。(礼)
あけまして、おめでとうございます。
本年もご支援のほどよろしくお願い申し上げます。(敬礼)
> 経営側、もしくは、マネジメントする側におかれた人なら、興味深い内容だと思います。
ということは、やたすけさんも、いよいよマネージャーになってきたということですね〜。(笑)
とても良いことです!
本年がやたすけさんにとって飛躍の年になるよう祈念しています。(礼)
Posted by 堀 at 2008年01月09日 08:55