2008年10月25日

「メガヒットの秘密/20年目のB'z」を見て、プロフェッショナルが持つべき思考回路を再認識するの巻

「自分がやりたいこと」ではなく、「相手がやって欲しがっていること」をやる。
「自分が納得できること」ではなく、「相手が納得できること」をやる。
「自分が言いたいこと」ではなく、「相手が聞きたがっていること」を言う。
「自分が言いたいように」ではなく、「相手がわかるように」言う。

これらは、営業/マーケティングの鉄則だ。
この鉄則をやり切っている人は、社会的にも経済的にも成功している。

しかしながら(だから?)、この鉄則をやり切っている人は、そう多くない。
正直ところ、私自身、現時点においては、まだやり切れていない。(汗)

この鉄則をやり切っている人とやり切っていない人を分かつものは何か。
それは、「お客さまの喜びを自分の喜びと徹頭徹尾考える」思考回路の有無、だ。
真のプロフェッショナルとは、「自分が感じた喜びや自分が会得した真理は、必ずしもお客さまの喜びや真理にならない」旨達観した上で、お客さまを納得&満足させるために自分を徹頭徹尾納得&満足させようとする人のことだ。

以上のことを、私は、とあるテレビ番組を見て再認識した。
とあるテレビ番組とは、「メガヒットの秘密/20年目のB'z(2008年10月6日付NHKスペシャル)」だ。

この番組は、松本孝弘さん(ギター/作曲)と稲葉浩志さん(ボーカル/作詞)がB'zというバンドのメンバーとして互いに「愚直な努力をコツコツと積み重ねている」(←番組内のナレーション)さまを20周年のライブリハーサルとCD制作の現場から取材し、「売れている(=国内CD売上ダントツ一位の)理由」を解き明かそうとしたものだ。

先述のことを再認識したのは、松本さんと稲葉さんの以下のコメントからだ。
【松本さん】

ちょっと考え過ぎだよね。
(※新曲のレコーディング時、以前OKテイクを出したギターソロを再聴し、NGを出した際のコメント)



(※「稲葉さんをひと言で言うと?」の質問に対して)
今パッと思いつくのは、ストイックってことかな。
B'zのボーカルとしての自覚がすごいよね。
喉の管理だとか、体力の維持だとか。
やっぱり、あれは、普通の努力の仕方では無理だと思うね。



たとえば、決まったドラマーが居たりすると、B'zって基本ハードロックとは言いながら物凄くジャンルの幅が広く割と色々なことをやるじゃないですか。
その時にハードロック一辺倒のドラマーだと、「こういう曲は(おれは)やりたくないよ」って、レコーディングしてもクオリティが下がることがあるけど、(稲葉さんと二人でやっているので)そういうのはないもんね。

オレたち何でもそうなんだけど、「違うんじゃない?」っていうのは、一番誤解のもとになっちゃうから、まずは「思う通りみんなやればいいじゃん!」、と(いうスタンスでやる)。
これは妥協とは違うんだよね。
だって、それで得したこといっぱいあるんですよ、今まで。
「うっそお」と思って、やってみたらそれがヒット曲になったとか、そういうことあるんですよ。
なので、まずそれが一番いけないですね、最初の時点で「これはないな」って言ってはねちゃうのは。
それは続けてやってきたことですね。



【稲葉さん】

たとえば、僕がひとりでやるとすると、その自分の気持ちいいメロディみたいなのがあるじゃないですか。
で、この言葉にはこういうメロディだと。
それをあえて他者(ひと)のメロディの中でやることによって、もっとその周りの人に、その何だろうな、
自分がいいと思っていても他者(ひと)のメロディに乗った時にもっと周りの人がこっちのほうがいいと思うというか、そこをあえて自分をゴリ押しするとできないんですけども、ある意味自分を抑えるというか、そのことによって自分で発見することができる。
そうです、誤解を恐れずに言えば、100%の自己表現ではないというところですかね。

(※「稲葉さんはアーティストですか、ミュージシャンですか?」という質問に対して)
僕の中の意識は、あまりアーティストというのもないし、実はミュージシャンという意識もあんまりないですね。
ましてや音楽家というのも、あまりないですね。
B'zのシンガーですね。

B'zの曲は、いずれも、馴染みのいい歌謡曲のメロディに、翻訳されたハードロックのエッセンスが組み合わされている。
さらに、ボーカルはイケメン。(笑)
稲葉さんにならって私も誤解を恐れずに言えば(笑)、音楽マーケットがB'zというバンドに求め、B'zというバンドを評価しているのは、「トコトンわかり易いこと」だ。
B'zは「わかり易さを身上とするハードロック風歌謡曲」バンドだ。

この番組を見て私が強く感じたのは、松本さんと稲葉さんが、「ミュージシャンとして自分がやりたいこと」ではなく、「音楽マーケットがB'zというバンドに求めていること」を徹頭徹尾やり切っておられることだ。
B'zが売れている一番の理由はここにある、と思う。
番組はB'zが売れている理由を「愚直な努力をコツコツと積み重ねること」と結論づけていたが、それはプロフェッショナルとして当然かつ日常のプロセスに過ぎない。

とはいえ、マーケットが求めていることをやり切るには、想像を絶する困難があろう。
腕に自信があるミュージシャンであれば、尚更に違いない。
そう自我のせいだ。

約二十年前、ラウドネスというハードロックバンドがアメリカへ進出した。
当時制作されたアルバム「THUNDER IN THE EAST」は、日本人で初めてビルボードにチャートインした。
このアルバムを制作するにあたり、ラウドネスは、初めて外部プロデューサー(マックス・ノーマンさん)を起用した。
バンドのリーダーであり名実共にギターヒーローと称されていた高崎晃さんは、当時「Player」という雑誌で以下の旨述懐した。

制作現場は、マックスとの議論(ケンカ)が絶えなかった。
たとえば、リフやソロに「知的な部分」を残そうとすると、マックスに悉くカットされた。
今では、それで良かったと思っているが。

THUNDER IN THE EAST
LOUDNESS
日本コロムビア
2009-03-18


ミュージシャンであるか否かに関わらず、プロフェッショナルとしてこの困難に打ち克つには、いかにすべきか。

ひとつは、自分や他者の自我を客観視し、自我が自分とお客さまに何をもたらすか見極めることだ。
松本さんは、とりわけTMN(TMネットワーク)浜田麻里さんのサポートギタリストを務めていた折、そうなさっていたに違いない。



もうひとつは、自我を捨てるに足る目標を持つことだ。
松本さんは、高校卒業の寄せ書きに書いた「世界のスーパースター」という将来の夢を、今もずっと持ち続けておられるに違いない。

ちなみに、これらは、松本さんと稲葉さんにとって少なからずビンゴだったかもしれない。(笑)
松本さんと稲葉さんは、2009年2月28日に放映された「RUN/B'z・20年の軌跡」の中で、以下コメントなさっていた。

【松本さん】

今から客観的に見ると、「Bad communication」は、最初の二曲と比べると、明らかに完成度が高いと思いますね。
最初の二曲の良いところが全部「Bad commnication」に集まったという感じがしますね。
当時レコード会社は段々厳しくなってきたところで、「良いアーティストを育てていこう」というところから、「三枚作って売れなかったら次」っていう感じだったんですね。
だから、「僕たちも、三枚目までにはヒットさせないと、まあ埋もれちゃうかな」という感じはありましたね。

歌うヤツが言葉を発する訳じゃないですか。
そいつが言葉を書く。
で、おれが曲を書く。
二人だからね。
で、二人で責任を持って分担してバンドの音を創る。
そう、まあ、リアリティだよね。
どっちかっていうと、その方がリアリティがあるんじゃないかなと、僕らは。
「この人たちが創っているだよ」っていう。
で、実際にCDを買ってくれても、「あ、歌の人が詞を書いていて、ギターの人が曲を書いている、みんな自分たちでやっているんだ」(っていう)。
これは当初から思ってたんだけど、収入の差ができると、バンドって絶対うまくいかなくなる。
(こんなことを当初から思うとは)もう売れること前提ですよね。(笑)
そういうのもたくさん見てきたしね。
だから、そうなった時に、バランス、これはもう絶対大事なことですよ。

【稲葉さん】

デビュー当時、バンドのビジョンは彼(松本さん)だけが持っていて、自分はそれに必要なものをただ提供するだけという感じでしたね。
(松本さんも自分も)ハードロックが好きなんだけども、「自分たちが相手にするのはハードロックファンではない!」と彼は(いつも)強く言ってましたね。
だから、当時、ギターソロを全面に押し出すといったこともしなかったし、むしろ包み隠すというか。
でも、自分のギタースタイルとか、ボーカルスタイルっていうのは簡単に変えられない。
その辺のところは、「ダンスビートのオブラートにくるめて、自分たちが持っているテイストをリスナーのみなさんへ届けていた」という感じがします。

「100パーセント純粋に誰も全く聞いたことがないもの」だとダメだと思うんですけど、「みんなの心の中にそれに反応する素養というかそういうものがあって、そこに働きかけて、しかも新しく聞こえるスタイル」というのが売れ始めた頃にはみんなに持ってもらえたんじゃないかな、と思います。

私は、有意義な再認識の機会をくださった松本さんと稲葉さんにこの場を借りてお礼を申し上げると共に、B'zが益々成功するよう祈念したい。(敬礼)



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この記事へのコメント
ミュージシャン、とりわけギタリストはあこがれの商売です。

松本さんは、日本人では数少ない、
ギブソン社がシグネイチャーモデルを作ってくれている人。

自分が好きなギタリストと方向性は違いますが、
頂点を極めていると言っても過言では無いと思います。

ギターソロへのこだわり、わかる気がします。

過去、数回スタジオに入って録音をしたことがあり、
『やり直したい』と思ったこと数知れず(^^;)

それはさておき、
私の好きなギタリストが本に書いていました。
『プロになったら、体調が悪くてもステージには出ないといけない』
『調子悪いから今日のレコーディングは無し!』
『なんてことは言えない。自分のために働いている人が周りにいるから』
厳しい世界ですね。

でも、やっぱりあこがれ・・・。
Posted by 平八郎 at 2008年11月02日 19:55
平八郎さん

こんにちは、堀です。
コメントをありがとうございます。(礼)

若い頃(笑)、私もギターを弾いていました。
平八郎さんのお気持ちはおおよそわかるつもりですし、似たようなことをしてきました。(笑)

ただ、当たり前ですが、松本さんはプロのギタリストですね!
というか、プロ中のプロですね!
「ミュージシャンの自分が納得できるギターソロをトコトン創る」ギタリストはそれなりに居ますが、「マーケット(お客さま)がバンドへ求める音をトコトン&わかり易く創る」ギタリストはそう居ないからです。

不肖私、松本さんの爪の垢を煎じて飲みたいと思います。(笑)
Posted by at 2008年11月04日 18:21