2009年03月09日

「寛容力/怒らないから選手は伸びる(渡辺久信/著)」を読むの巻

「自分の職業の意義と可能性を信じる」。
本事項は、とりわけ「指導者」業に従事する際欠かせない。

このことを再認識させてくれたのは、埼玉西武ライオンズの渡辺久信監督が書いた「寛容力/怒らないから選手は伸びる(講談社/刊)」だ。
昨年、渡辺さんは、「ファンがまた球場へ足を運びたくなる」わかりやすい”面白さ”に満ちた野球を標榜し、その具現化へ向けコーチ共々”選手目線”の明快な選手指導に努め、ライオンズを見事優勝に導いた。
こうして渡辺さんが監督業(※一軍)を就任初年度から全うできたのは、”チーム最高指導者”である監督業の意義と可能性を、過去の経験から心底信じていたことが大きかった。
末に付した箇所をもとに誤解を怖れず結論づければ、渡辺さんが指導者の意義と可能性を初めて信じたのは、野村克也監督の理論的(⇔感覚的))/戦略的(⇔戦術的)/哲学的(⇔表層的)な野球論に出会った時だ。

「常識の殻を破って、新しいことに取り組まなければ、いいものは生まれない」(P119)
「やって失敗したら、また新しい取り組みをすればいい」(P121)
「そう、ダメだったら、すぐに変えればいいんだよ」(P122)

このように進取の気性に富む渡辺さんが、野村監督と出会うまで技巧派投手へ転向しあぐねていたのは、速球派投手としての天賦の才と成功体験に恵まれ過ぎたことと、野村監督以外の指導者の指導に心底の納得感を抱けなかったことが大きい。
<自論を他者へ言葉で伝える意義と可能性>を野村監督のもとで体感しなければ、渡辺さんは、技巧派転向の手ごたえを感じることなく現役を退いたであろうし、監督業を早々には全うし得なかったであろう。

野村監督は、何かの本で以下の旨おっしゃった。

他者(ひと)の成長と成功に関わることができ、かつ、自分も成長できる。
指導者ほど「ありがたい」&「やりがいのある」職業は無い。

私は若輩指導者だが、渡辺さんから知見を授かった今、一層うなづける。
今後は、指導者の意義と可能性を一層信じる所存だ。

末筆だが、渡辺監督率いる埼玉西武ライオンズが本年度もファンを魅了するよう祈念したい。(礼)



★上述の結論の構成箇所

P85
おまえは”素質”と”感性”で野球をやっているから、(台湾行きは)いい勉強だ」と、繰り返しおっしゃる東尾さん

P9
しかし90年代の半ばになると、頼みの直球に衰えが隠せなくなり、以前のような勝ち星が挙げられなくなります。
僕としては、30代に差し掛かったら直球に衰えが出るのは、ある程度予想がついていたことでした。
そこで、少しずつ、コースを突いて丁寧な投球をする「軟投派」への転向を試みていたのですが、思うようにはいきません。
93年以降は二桁勝利からも遠ざかり、そしてついに97年には勝ち星がゼロに。
チームの若返りの方針もあって、ライオンズを解雇されます。

P77
現役最後の年となった98年。
僕はライオンズを去り、ヤクルトのユニフォームを着ることになりました。
前年の97年のシーズン、僕は12試合の登板で未勝利に終わり、球団から自由契約を通告されています。
東尾監督からは、「直球が通用するうちに、ピッチングの組み立てを変えろ」と言われていたのですが、最盛期のイメージがどうしても身体に残っていたのかもしれません。
思うような結果を出すことができませんでした


P17
ぼくは現役のころ、さまざまなタイプのコーチの指導を受けてきました。
そして、指導者になってからも、さまざまな選手たちがコーチとの関係性によって成長したり、または萎縮して失敗したりする様子も見てきています。
厳しく接することによって反骨信を刺激され、成長していく選手ももちろんいます。
しかし、そういう選手ばかりではない。
むしろその逆で、ミスを厳しく追及されることで、本来持っている才能や長所を見失ってしまう選手のほうが多いということに気がついたのです

P24
ぼくの現役時代、非常にきつい物言いをしてくる、昔気質のコーチがいらっしゃいました。
そのコーチにはどの選手も、「おまえ、何をやっとるんだ」のひと言から始まり、頭ごなしにガミガミ言われてしまう。
当時の選手でも、「確かにコーチの言っていることは間違っていない。そんなことはわかっている。でも・・・」となってしまうわけです。
コーチの言い方ひとつで、選手がそれを受け入れられるか否かが大きく違ってきてしまうのです。

P76
恵まれた体とセンスに頼ってプレーをしていた僕に大きなカルチャーショックを与え、さらに「指導者って面白い」と初めて思わせてくれたのは、じつはヤクルト時代にお世話になった監督、野村克也さんなのです。

P82
ヤクルトでは現役のピッチャーとしてシーズンを過ごしており、指導者になることを強く意識していたわけではありません。
でも、僕のところに話を聞きに来る若手のピッチャーには、僕の体験や経験をできる限り伝えるようにしていました。
それは、僕の体に記憶されている投手としての経験を、言葉を使って若手の選手に伝えていく作業です。
言葉で置き換えながら、それまでの自分のピッチャーとしての14年の経験を再認識する。
それまでは説明できなかった自分の体の動きや経験を、言葉を介することで整理して、自分以外の選手にも伝えられるようになっていく。
僕は「野球って面白いな」と改めて感じ、「この面白さを若い選手に伝えたい」と思うようになったのです。
それまでは深く考えることなく、恵まれたセンスに頼ってプロ生活を過ごしていた僕も、野村監督のいわゆる「ID野球」に触れることで、野球に対する考え方が大きく変わりました。
同時に自分の体験が理論化されることで、他の人に伝えることができるようになっていく。
今思えば、野村監督の下で過ごした1年間で、「教えることの楽しさ」「指導者って面白い」ということを、意識するようになったのだと思います。


P140
僕が監督に就任するに当って、ひとつ大きな目標として掲げていたこと。
それは球場から足が遠のいてしまったファンの皆さんが、ふたたび足を運びたくなるような魅力的なチームにすることです。
チームの技術的、組織的な能力の向上を目指し、「強いチームを作る」ことはいうまでもないですが、ある意味それ以上に「顧客動員数」を意識していました
「ファンあってのプロ野球だ」などと、通りいっぺんの理屈を語るつもりはありません。
観客動員数増加を明確な目標として掲げた理由は、チームを強くするためにも、それが絶対に必要だと考えたからです。
選手たちのモチベーションを引き上げ、適度な緊張感の中でのびのびと野球を楽しめるような環境を作るために、観客動員の大幅増加が絶対条件だったのです。
その原体験には、僕自身が初めて一軍のマウンドに上がったときの、強烈な記憶があります。

P145
観客動員を最重要課題のひとつに据えた僕は、当然「どうすればお客さんが集まってくるのか」を考え続けました。
やはりプロ野球を観るファンの方々は、好きなチームが勝つことが嬉しいでしょう。
でも全試合勝つチームなんて、それこそ夢物語です。
それでは、勝ち負け以外に「プロ野球を観て面白い」「プロ野球を観てよかった」と思わせるためには、どうすればよいのでしょうか。
その結論として僕は、現代のファンが野球に求めている大きな要素は”爽快感”だということに気がつきました。
玄人好みの隠れたプレーや、いぶし銀の選手が見せる渋い”仕事”にゾクゾクする”コアなファン”の方々も、プロである自分や選手たちとしては、もちろん大好きですし、ありがたいものです。
でも、よりわかりやすい”面白さ”を求める大多数のファンを喜ばせるためには、「爽快感のある野球」を目指すべきなのではないかと考えたのです
「それでは野球で求められている”爽快感”とは何でしょう。それは、やはりピッチャーだったらズバット三振を奪うこと。
そしてバッターだったら、なんといってもガツンとホームランを打つことでしょう。
(中略)
その考えもあって、打撃コーチには大久保を起用しよう、と決断したのです。
投手については小野コーチと僕で見ていく形にして、打者は彼のように「先頭に立ってガンガン引っ張っていける人物」を立てようと考えました。
そしてホームランを多く放つ土台となる体を作るために、キャンプからアーリーワークなどを採用。
とにかく、選手たちが存分にバットを振り込むことができる環境を整えていったのです。

P27
<コーチにも目標と責任を与えてあとはじっくり見守ること>
清家政和コーチには、「ダブルプレーを取れる内野陣にしてほしい」と伝えました。
すると清家コーチは、二遊間強化のために、中島や片岡には打撃よりも守備に多くの時間を割かせるようになりました。
さらに打撃では大久保博元コーチに「とにかく2ストライクまではバットを振り切ることができるように、その土台から作ってほしい」という形で要望を出しました。
このように外野守備でもピッチングでも、トレーニングコーチにも、具体的な目標、要望を伝えました。
そのうえで、僕はあまり口出しをしないようにしたのです。

僕から細かい指示を出してしまうと、コーチとしては指導のうえで試したいことがあっても、実行できなくなるでしょう。
そこで、「まずはやってみてください。問題があったらまたそこで直していきましょう」というスタイルで進めていきました。
もちろん僕の要望を含め、球団と相談して決めていただいたコーチ陣ですから、間違ったことはしない人たちだと信じています。
だからこそ、各々の役割と責任を明確にすることで、コーチも責任感とやりがいを感じ、しっかり仕事をしてくれると考えたのです。

P30
今の若い選手だちを動かすためには、なぜそれをやるのかをちゃんと説明し、動機付けを行い、目標を与えることが重要だと僕は考えています。
(中略)
特に投手陣に向けて、ある指示を伝えました。
「オフの間もキッチリと筋力を維持して、2月1日に戻ってきてくれ」
さらにその具体的な理由と「どの程度まで維持するか」という指標を与えました。
「投手陣は、キャンプ初日の2月1日にはもうブルペンに入れる予定だ。また1クール終わったら、打撃練習でバッティングピッチャーとして投げてもらう。そういうスケジュールで動くので、そのくらい投げられるだけの準備をしておいてほしい」と伝えたのです。
具体的に目標を設定することで、オフの間の各自の努力を促すことが目的でした。





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