2009年03月31日
渡辺明竜王の初講演を拝聴するの巻
初めて講演のようなものをします。
敬愛する将棋棋士の渡辺明さんがこの旨ブログで告知くださったので、昨日、リスケして拝聴してきた。
10歳で自分の生きる道を決断し、若くして大舞台を多々経験なさっている渡辺さんの講演は、初めてとはつゆも思えぬ自信と教示に満ち溢れたものだった。
私は、終始聞き入ってしまった。
幼い時分の学校生活や教師指導が、いかに将来へ可能性をもたらすか。
将棋から学べる予見力/問題解決力/決断力/持続力/自信力が、いかに成長と成功のエンジンになるか。
以上の事項について、渡辺さんの後輩である葛飾区立宝木塚小学校の生徒さんはよくわかったであろうし、オヤジの私もよくわかった。(笑)
渡辺さんは、以下の旨おっしゃった。
「『これを勉強していて、本当に強くなるのか?』という不安は消せないが、『もっと強くなりたい!』という気持ちを絶やさず、精進を続けるのが大切だ」、と。
若干24歳で永世竜王の称号を獲得し、「天才最強若手棋士」と称される渡辺さんでさえ、自己成長に不安を抱きながら、自分の能力と可能性を信じ、向上心を奮い立たせ、日々自らを精進させ続けておられる。
不肖の私は、もっともっと、自らを日々精進させ続けなければいけない。
講演の内容は、以下の通りだ。
文章化に伴い幾分編集しているが、あなたさまのご参考になれば幸いだ。(礼)
「『これを勉強していて、本当に強くなるのか?』という不安は消せないが、『もっと強くなりたい!』という気持ちを絶やさず、精進を続けるのが大切だ」、と。
若干24歳で永世竜王の称号を獲得し、「天才最強若手棋士」と称される渡辺さんでさえ、自己成長に不安を抱きながら、自分の能力と可能性を信じ、向上心を奮い立たせ、日々自らを精進させ続けておられる。
不肖の私は、もっともっと、自らを日々精進させ続けなければいけない。
講演の内容は、以下の通りだ。
文章化に伴い幾分編集しているが、あなたさまのご参考になれば幸いだ。(礼)
★渡辺明さんの講演
僕は、宝町に生まれ、この宝木塚小学校に通いました。
今、24歳です。
M市に住み、プロの将棋の棋士をやっています。
折角なので、小学校の頃の話をします。
僕が将棋を始めたのは6歳、小学校一年生の時です。
キッカケは、たまたま父親が将棋好きだったことです。
当時、将棋を指す小学生は、それほど多くありませんでした。
僕は、将棋を指す以外はごく普通の小学生でしたが、とにかくよく怒られました。(笑)
たとえば、砂場で泥団子を作って、仲の良い友達の靴に入れたりしました。(笑)
先生に本当に怒られました。
(学校が)親宛に出す連絡帳にいたずらの内容を記載され、親から認めの判子をもらってくるよう言われましたが、さすがに親には言えず、自分で判子を押して先生に返しました。(笑)
ただ、この時、「悪いことは、本当にいけないんだな」と思いました。
四年生の時の先生には、よくぶたれました。(笑)
でも、百人一首を使って授業する良い先生で、僕が二十歳で竜王のタイトルを取った時にはわざわざ連絡してくださいました。
卒業後も気にかけてくださり、嬉しく思いました。
五年生の時、同じクラスの女の子をいじめてしまいました。
(僕の)親が、保護者会で相手の親からすごく怒られました。
僕も、この時ばかりは、親からすごく怒られました。
当時僕がよく怒られたのは、先が読めなかったからです。
たしかに、将棋は先を読むゲームです。
ですが、当時僕は、将棋以外のことは先を読めませんでした。
「こんなことを言ったら、その友達は嫌な気持ちになるのではないか」と一息置いて考えることができず、「コイツ、馬鹿だな」と思ったら、そのまま「お前、馬鹿だな」などと言ってました。
将棋は、「負けて強くなる」と言います。
自分の失敗した箇所、ダメな箇所、そして、今後どうしたら良いかが学べるからです。
怒られることも同じです。
僕は、小学生の時、友達をよく嫌な気持ちにさせ、よく怒られましたが、何かをする前に先を読むことがいかに大切であるかを学びました。
プロと名のつく仕事は、たくさんあります。
ただ、将棋は、少し特殊です。
プロを目指すなら、小学校の時から始めていないと難しいです。
なぜなら、プロになれる年齢が若いうちに限られているからです。
早く始めた方が有利です。
僕は、四年生の時にプロになりたいと思いました。
僕がプロになったのは、中学校を卒業した時です。
高校の生活を始めると同時に、プロの生活を始めました。
僕は今24歳なので、もう10年くらいやっています。
将棋のプロには、タイトルというのがあります。
タイトルの取り方は、殆どが勝ち抜きのトーナメント方式です。
プロは、勝ち抜いてタイトルを取ることを目指します。
タイトルの一つに王座というのがあります。
僕が初めて挑戦したタイトルはこの王座で、当時羽生さんという人が持っていました。
羽生さんは、みんなはよく知らないかもしれませんが、大人はみな知っている、一時期タイトルを7つも独り占めしたとんでもない人です。(笑)
王座戦は五番勝負で、先に三勝した方が勝ちです。
当時僕は、19歳でした。
段位は五段で、まだ駆け出しでした。
自分自身「羽生さんが相手では歯が立たないな」と思っていましたし、周囲からもそう言われていました。(笑)。
結果は、負けました。
でも、二勝三敗と、予想外に善戦しました。(笑)
将棋を指すのに、普段はスーツを着て東京と大阪にある将棋会館という所で指すのですが、タイトル戦は違います。
着物を着て、ホテルや旅館で、それも時には海外で指します。
主催は新聞社で、現地では何を食べてもタダです。(笑)
とにかく、何もかもグレードが高いです。
だから、結果は負けましたが、「大きな勝負の場に出られるのは本当にいいものだな」と思い、その後の練習の励みになりました。
もうすぐ四月ですね。
みんな、新学期に入りますね。
将棋の世界にも新年度があります。
僕は、昨年度48局指しました。
大体一週間に一局のペースです。
これは、「一週間に一日しか仕事をしていない」ということです。(笑)
たしかに、対局以外にも仕事はあります。
でも、仕事らしい仕事をするのは、一ヶ月の内一週間もありません。
よく人から「お忙しいところすみません」と言われるのですが、全然忙しくないのです。(笑)
僕は、仕事の無い日は、大体家に居ます。
今の家に引っ越した当初は、近所の目を気にしました。(笑)
僕みたいな大人が、平日の昼間家に居るとおかしいですからね。(笑)
仕事が無くて家に居る時、僕は、将棋の勉強をします。
みんなも、これから中学、高校と進学し、テストを受けます。
普段勉強していないと、テストで良い結果は出ません。
将棋も同じです。
普段練習しなくても良い結果が出ればいいのですが、そんな訳には行きません。
だから、仕事が無くて家に居る日は、勉強をします。
プロの棋士は、みな同じだと思います。
ただ、プロの棋士は、対局以外、基本何をしてもOKです。
将棋のプロは、「結果は全て自己責任」の世界です。
喜ぶのも、困るのも、自業自得です。
アマチュアだと、将棋の勉強方法は色々あります。
本を読んだり、身近に居る強い人に習ったり、インターネットを使って対戦したり。
でも、プロだと、そうはいきません。
本に出ていることは知っていますし、身近に(自分よりも)強い人は居ません。
プロは、勉強が難しいのです。
何をどう勉強したらいいのか、わかりません(明らかではありません)。
僕は、「これを勉強していて、本当に強くなるのか?」と不安になることがあります。
現役最高齢の棋士は72歳です。
将棋はスポーツと比べ現役で居られる期間が長いとはいえ、すごいことです。
僕はその年まで現役で居られるかわかりませんが、今24歳なので、あと40年位は指したいと思っています。
好きなことを仕事にしている人は、世の中に数パーセントしか居ません。
僕が今こうして将棋が指せるのは、幸せなことです。
今後どれだけ強くなれるかわかりませんが、「もっと強くなりたい!」という気持ちを無くさず、これからも精進していきたいと思っています。
最後に竜王戦の話をします。
王座に挑戦した翌年、僕は、竜王というタイトルに挑戦しました。
相手は、羽生さんと同世代の森内さんという人でした。
運良く森内さんに勝つことができ、初めてタイトルを取りました。
僕は、竜王を防衛し続けました。
そして、あと一回連続防衛すれば永世竜王の称号をもらえるところまで、こぎつけました。
そんな折、昨秋、羽生さんが僕に挑戦してきました。
嫌なところで出てきました。(笑)
羽生さんにとっても、今回の挑戦は永世竜王の称号獲得がかかっていました。
しかも、羽生さんは、今回永世竜王を取ると、七大タイトル全て「永世」の称号を獲得することになります。
なので、昨秋の竜王戦は、かなり注目されました。
注目されたといっても、僕というよりは羽生さんが注目されたのですが(笑)、僕自身、棋士冥利に尽きる大きな戦いができました。
竜王戦は七番勝負で、先に四勝した方が勝ちです。
僕は、いきなり三連敗してしまいました。(苦笑)
もう一敗もできません。
勝つには、四連勝するしかありません。
ただ、プロ野球の日本シリーズだと三連敗の後に四連勝した例があるのですが、将棋だとありません。
周囲から「終わったな」という空気が伝わってきました。
三連敗の内容が良くなかったこともあり、辛かったです。
そんな時、いつも以上に「頑張ってください!」という声ももらいました。
大きな励みになりました。
「自分のことで、喜んだり、悲しんだりしてくれる人が居る以上、おろそかな将棋は指せないな!」と思いました。
第四局を迎えました。
すごい数の報道陣がやってきました。
羽生さんの永世竜王獲得がお目当てです。
誰も僕に勝って欲しいとは思っていないのです。(笑)
終盤、一瞬、「負けたな」「終局したら、報道陣がこの部屋へいっぱい入ってくるんだろうな」と思いました。
でも、奇跡的に、自分の王様が逃げられる筋が見つかり、勝ちを拾いました。
どうしてこういうことになったのかよくわかっていませんが、最後まで諦めなかったことは大きいと思っています。
僕は、本局の勝利から、「将棋は最後までわからないこと」と「最後まで諦めないことの大切さ」を再認識しました。
本局は、一生忘れられない将棋になりました。
報道陣は、つまらなそうに帰りました。(笑)
第五局を迎えました。
本局も勝ちました。
本局も、また報道陣がいっぱい来ましたが、またつまらなそうに帰りました。(笑)
第六局を迎えました。
本局も勝ちました。
これで、三勝三敗になりました。
報道陣は、またしてもつまらなそうに帰りました。(笑)
運命の第七局を迎えました。
勝った方が永世竜王を獲得することに加え、僕が勝ったら前代未聞の大逆転であることから、「百年に一度の将棋」と言われました。
自分でも指すのが怖いくらいでした。
結果はご存知だと思いますが、というか、もし負けていたら、今日ここへ呼ばれていないでしょう。(笑)
永世竜王の称号を獲得して新年を迎えましたが、これまでのところあまり成績はよくありません。(苦笑)
好きで始めた将棋です。
永世竜王の名に恥じぬよう、これからも将棋を一所懸命指したいと思います。
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この記事へのコメント
初めまして、堀さん^^
youtubeの竜王の母校での講演のリンクからやってきました。
私も会場にいましたが、講演内容の詳細な文章と
質疑応答の動画にとても感謝しています。
私は会場に1時間以上早く着いてしまったのですが、
その際渡辺竜王ご自身で、大盤の付いているホワイトボードを
設置されているのを拝見しました。
こんなことまでご自身でされているお姿に感じ入りました^^
大変素敵なお話だったので色々な人に
こちらのサイトと動画を見て頂きたいなと思いました。
竜王ファンとして嬉しい記事でございましたので
コメントさせて頂きました。
それでは〜^^
Posted by さちこ at 2009年04月02日 22:27
さちこさん
はじめまして、堀です!
初コメントをありがとうございます。(礼)
私の駄記事&投稿動画がさちこさんのお役に立ったようで、光栄かつ嬉しいです!
さちこさんの該当ブログ記事を拝読しました。
さちこさんはスゴイですね!
渡辺さんにご愛用のipodへサインしてもらうなんて!
質問したいこともあったので、私も講演終了後渡辺さんを追いかければよかったかもです。(笑)
スゴイさちこさんからご縁が授かれて、これまた光栄かつ嬉しいです。
縁を取り持ってくださった渡辺さんに、感謝、感謝です!
はじめまして、堀です!
初コメントをありがとうございます。(礼)
私の駄記事&投稿動画がさちこさんのお役に立ったようで、光栄かつ嬉しいです!
さちこさんの該当ブログ記事を拝読しました。
さちこさんはスゴイですね!
渡辺さんにご愛用のipodへサインしてもらうなんて!
質問したいこともあったので、私も講演終了後渡辺さんを追いかければよかったかもです。(笑)
スゴイさちこさんからご縁が授かれて、これまた光栄かつ嬉しいです。
縁を取り持ってくださった渡辺さんに、感謝、感謝です!
Posted by 堀 公夫 at 2009年04月03日 22:19
はじめまして。
将棋好きな子供をもつ母です。
you tubeのリンクからやってまいりました。
大変興味深い内容で 将棋好きなお子さん方々にもぜひ読んでいただきたく
私のブログで堀さんの こちらの記事を紹介してしまいました。
事後承諾になりました。
申し訳ありません。
講演の内容を文章化して紹介してくださりありがとうございます。
とても参考になりました!
将棋関連の記事が 他にもございましたが
堀さんご自身も将棋は指されるのですか?
やんちゃな子供をもっているので 渡辺竜王の子供時代の叱られぶりを
知ることができ ちょっとホッとしているところです。
ご迷惑でなければまたお邪魔させてくださいませ m(_ _)m
将棋好きな子供をもつ母です。
you tubeのリンクからやってまいりました。
大変興味深い内容で 将棋好きなお子さん方々にもぜひ読んでいただきたく
私のブログで堀さんの こちらの記事を紹介してしまいました。
事後承諾になりました。
申し訳ありません。
講演の内容を文章化して紹介してくださりありがとうございます。
とても参考になりました!
将棋関連の記事が 他にもございましたが
堀さんご自身も将棋は指されるのですか?
やんちゃな子供をもっているので 渡辺竜王の子供時代の叱られぶりを
知ることができ ちょっとホッとしているところです。
ご迷惑でなければまたお邪魔させてくださいませ m(_ _)m
Posted by ぽぽ母 at 2009年04月16日 14:07
ぽっくんのお母さん
はじめまして、堀です。
初コメントをありがとうございます。
今後ともよろしくお願い申し上げます。
ぽっくんのお母さんが運営なさっているブログを拝見いたしました。
ぽっくんは、将棋を始めて五年になるのですね。
この五年のぽっくんの目覚しいご成長とお母さんの頑張りに敬意を表します。
渡辺明さんの講演を拝聴した記事をご紹介いただきありがとうございます。
渡辺さんは、ぽっくんとお母さんを眼前にイメージして、熱弁をふるっておられました。
件の記事がぽっくんとお母さんの益々のご成長&ご成功の一助となれば幸いです。
私も将棋は指します。
中学や高校の頃は、私も千駄ヶ谷の将棋会館へ行きました。
かくいう今は、もっぱら義父と年に数回といったところです。(笑)
機会があれば、一度お手合わせ願います!
はじめまして、堀です。
初コメントをありがとうございます。
今後ともよろしくお願い申し上げます。
ぽっくんのお母さんが運営なさっているブログを拝見いたしました。
ぽっくんは、将棋を始めて五年になるのですね。
この五年のぽっくんの目覚しいご成長とお母さんの頑張りに敬意を表します。
渡辺明さんの講演を拝聴した記事をご紹介いただきありがとうございます。
渡辺さんは、ぽっくんとお母さんを眼前にイメージして、熱弁をふるっておられました。
件の記事がぽっくんとお母さんの益々のご成長&ご成功の一助となれば幸いです。
私も将棋は指します。
中学や高校の頃は、私も千駄ヶ谷の将棋会館へ行きました。
かくいう今は、もっぱら義父と年に数回といったところです。(笑)
機会があれば、一度お手合わせ願います!
Posted by 堀 公夫 at 2009年04月16日 23:48