2009年04月04日

羽生善治名人が第58回NHK杯の決勝戦で森内俊之九段に逆転勝利したさまを見て、人対人の勝負を決するのが感動力であるのを改めて気づかされるの巻

最近感動した将棋ネタに関する記事の一つ目は、有吉道夫九段が御年73歳にして現役続行を決めた件に関してであった。
続く(笑)二つ目は、羽生善治名人が第58回NHK杯将棋トーナメントの決勝戦(2009年3月22日放映分)で森内俊之九段に逆転勝利した件に関してだ。

いきなり補足なのだが、実はこの勝負、少々複雑だ。(汗)
「逆転」と書いたが、実はそう言い切り難いのだ。
なぜなら、本当は逆転していなかったからだ。

たしかに、羽生さんは、終盤詰めろがかかっている局面(=あと一手で自分の王様が詰んでしまう/負けてしまう局面)で、解説担当の渡辺明竜王を感動即ち<驚愕>→<動揺>→<感心>せしめる妙手を指し、森内さんに勝利した。
「自らが指した妙手を契機に、絶対絶命の局面を引っくり返して勝利した」という意味では、「逆転」だ。

しかし、それは、森内さんが自らの勝ち(=羽生さんの王様が既に詰んでいること/羽生さんが実は負けていること)を見落としてしまったからであった。
羽生さんの妙手は自分の王様の詰み(=森内さんの勝ち)を完璧に消すものではなく、森内さんが正着で応えていれば、羽生さんの勝ちはなかった。
「絶体絶命の局面に追い込まれたものの、自らが指した妙手に対戦者の手元が狂い、対戦者が自滅したことで勝利を拾った」という意味では、「逆転」と言い切り難い。

ちなみに、解説担当の渡辺さんは、このことについて自身のブログで以下後述している。

「羽生名人の△9四歩が妙手で逆転勝ち」という締め方をしましたが、これは誤りだったことが感想戦で判明。
△9四歩には▲6二金△同玉▲6一金から、後手玉に詰みがあったのです。
よって「△9四歩が素晴らしい頑張りで、逆転に結び付いた」が正しかったです。
弱い解説者で申し訳なかったですm(__)m

2009年3月22日付「渡辺明ブログ」から転載
http://blog.goo.ne.jp/kishi-akira/e/3213823494e9d0a465934aeb251d00ae

以上を考慮した上で、羽生さんの勝利から改めて気づかされたことがある、
それは、「人対人の勝負を決するのは、『相手の心身を合理的に動かす力(=説得力)』ではなく、『相手の心身を非合理的に動かす力(=感動力)』である」、ということだ。
本局は、説得力だと、森内さんが紙一重で羽生さんに勝ち、感動力だと、羽生さんが紙一重で森内さんに勝ったのではないか。
過去名人位を5期保有し、現在もトップ中のトップ棋士である森内さんが正着を指し損ねたのは、羽生さんの妙手が自分の予想や着想をものの見事に裏切ったからでないか。
誤解を恐れずに付言すれば、当時、森内さんは、渡辺さんと同様、羽生さんの妙手に感動即ち<驚愕>→<動揺>→<感心>し、「これは一本とられたな!」と心の中で苦笑したのではないか。

もちろん、以上は未確認の事実であり、私の仮説、いや妄想に過ぎない。(笑)
森内さんの手元が狂ったのは、単なる「弘法にも筆の誤り」なのかもしれない。
しかし、あの森内さんが勝ちの局面で「筆を誤らせる」とは、考え難い。
しかも、同じくトップ中のトップ棋士であり、昨年羽生さんを降して永世竜王になった渡辺さんは、羽生さんの妙手に対し、番組終了まで何度も「△9四歩はすごかった!」と驚愕&感心コメントを連発していた。
であるからして、「森内さんの心身に非合理的な動きが生じた」、即ち、「森内さんは感動した」と考えても、妄想が過ぎる(笑)とは言えないのではないか。

これまた妄想の域を出ないが、本局を見た人の内、「『頑張り』をさも『逆転の一手』に見せるとは、羽生は人たらしだな」とか、「『頑張り』と『逆転の一手』を見間違えるとは、森内or渡辺も大したことないな」などと思った人は、皆無なはずだ。
なぜなら、件の羽生さんの妙手は、あの局面で、全棋士から人となりと実績の両方を高く評価、信頼されている羽生さんゆえに成立した手だからだ。
もし、名も知らぬヘボアマチュアの私が(笑)森内さんや渡辺さんを相手にあの局面で羽生さんと同じ手を指しても、いずれの御仁も120%正着で応えたはずだ。
私たちは、不断に頑張り、他者を感動させることが、いかに困難で、いかに有意義か、経験上熟知している。
絶体絶命の状況に追い込まれてもなおプロ中のプロ棋士の森内さんを感動させた羽生さんを、また、羽生さんならではの妙手に感動した森内さんや渡辺さんを、それぞれ否定評価する人は、皆無なはずだ。

人対人の勝負を決するのが感動力であるのは、ビジネスでも同じだ。
リッツカールトンホンダカーズ中央神奈川を研究すると、よくわかる。
リッツカールトンやホンダカーズ中央神奈川で「これは一本取られた!」と感動して商品を買ったお客さまは、後でもっと安価な、もっと高性能な商品を他で見つけても、同社を恨んだりしないはずだ。

私たちが日々相手にしているのは、人だ。
機械ではない。
たとえインターフェースは機械であれ、その先には必ず人が居る。
人は、感動に応え、感動を肯定評価する生き物だ。
私たちが羽生さんの頑張りと感動力からまねぶことは、少なくない。

末筆だが、本局を見て、なぜ、将棋が長きに渡って多くの人から愛好されているのか、わかったような気がした。
人と人が指す将棋。
それは、人生の縮図であり、また、人生そのものなのかもしれない。



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