2013年05月22日

「原作屋稼業/お前はもう死んでいる?(著:武論尊さん)」を読み、プロフェッショナルにとっての「生き恥」の意義と不可避さを再認識するの巻

私は、20代半ば、転勤(子会社出向)で岡山に2年ほど住んでいたことがあります。
数多ある思い出の一つは、「お前は、綺麗に仕事をしようとし過ぎる。もっと泥を飲まなくてはいけない」と現地の上司(役員)に叱咤されたことです。

当時、私は余りにも若く、正直、彼の言わんとしていることがよく分かりませんでした。
たしかに、私は、当時も(から?w)合理的で、非効率な仕事の進め方が大嫌いでした。
だから、彼が唱え、推進していた営業方法が、非効率極まりない前近代的なそれにしか見えませんでした。
私は、自分が唱えるそれの方が確率的に、費用(投資)対効果的に優れていると確信していたことも手伝い、強く反発しました。
そして、彼は、私のその態度の余りの露わさに見かね、先のように私を叱咤したのです。

私は、彼がこう叱咤したのは、詰る所、親会社の社員、それも、自分の子どもの様な若い社員へのひがみだ、と思いました。
私が当時勤めていた会社と業界は完全なピラミッド社会であり、一定の年齢を過ぎて、子会社の社員の職位と待遇が親会社の社員のそれを超えることはありませんでした。
そこで、私は浅はかなことに、こう思ったのです。
「役員にまで上がった彼のこと、時代が変われば仕事の進め方も変わることも頭では分かっているものの、新しいそれを、しかも、自分の子ども位の若造の唱えるそれを肯定、受容することは、これまで培った自分の誇りやアイデンティティを毀損しかねず、結果、このように職位を利用し、精神論で否定、却下するほか無いのだ」、と。

今思い返すに、私は本当に浅はかでした。
「今の若い内にこそ、『生き恥』に強くなれ」。
私は、彼が先の叱咤で私に一番言いたかったのは、こうだったと思えてなりません。

後で分かったことですが、彼は、異なる上司のもとで働いていた私の仕事ぶりや人となりを聞きつけ、そして、社長に「堀が欲しい、欲しい」と散々直訴して、私を自分のもとに引っ張ったのです。
なぜ、彼はそこまでして、私を自分のもとに置きたかったのか。
あくまで推量ですが、私の中に、合理主義者特有のひ弱さや脆さを直感したからではないでしょうか。
彼は、人づてに聞いた仕事ぶりや人となりから私を「プロサラリーマン予備軍」や「プロ親会社社員予備軍」として有望に思ったものの、それを直感し、前途を危惧したのではないでしょうか。

では、なぜ、彼はそこまでして自分のもとに置いた私を、先のように叱咤したのか。
プロフェッショナル足らん者、実力と成果が「生き恥」と引き換えざるを得ない刹那とフェーズがあるのを、これまでの長い人生経験で思い知っていたからではないでしょうか。
そして、出向期間中という限られた日々の中で、私に敢えて非効率な仕事を課し「生き恥」を必要以上にかかせ、プロフェッショナル予備軍としての強靭な資質と覚悟を醸成したかったのではないでしょうか。
なぜなら、大の大人が、それも相応の社会的立場を得た大人が、放置しようとすればいくらでも放置できる、また、潰そうと思えばいくらでも潰せる若者を、命より次に大事な時間と労力を使って叱咤、教育するのは、”その”若者に目をかける余り、即ち、”その”若者の輝ける未来を嘱望する余り、持てるポテンシャルがふいになるのが放っておけないから、だからです。

ところで、なぜ、私はこのような昔話を述懐、考察しているのか。(笑)
それは、私が、「北斗の拳」が大好きで(笑)、昨日その原作者である武論尊さんの自伝的小説「原作屋稼業/お前はもう死んでいる?」を読み、以下の箇所に、プロフェッショナルにとっての「生き恥」の意義と不可避さを再認識させられたからです。
P187
「ヨシザワ、プロってなんだ?」

「・・・・・・」

「素人とプロの違い、わかるか?」

「・・・い、いえ・・・」

「それはな、どんな生き恥を晒そうと、その世界でやり続けていく覚悟があるかどうかだ」

ブー先生はタバコに火を点けると、左の上腕ニ等筋を軽くマッサージしながら言った。

「1発2発なら素人でも当てられる。でもプロってのは、その世界でずっと生き残っていかなくちゃならねえ。それは、創作したものがその世界で生き続けていくってことだ」

ブー先生こと、武論尊さんの仰ることは、尤もです。
そうです。
プロフェッショナルの条件は、「生き恥」を捨てる胆力と覚悟です。

私は、件の彼にもう一度会って、当時の愚を謝罪したいです。
そして、もしできることなら、彼に現有の「生き恥」を捨てる胆力と覚悟を品定めしてもらい、感謝したいです。








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