2013年07月02日

「個を動かす/新浪剛史、ローソン作り直しの10年」を読み、「なぜ、ローソンは店舗レベルで、セブンイレブンに大きく負け続けているのか?」の答えを垣間見るの巻

私がかねてから不思議に思っていたことの一つに、「なぜ、ローソンは店舗レベルで、セブンイレブンに大きく負け続けているのか?」ということがあります。
たしかに、ローソンは、セブンイレブンと比べると、ファースト・ムーバーズ・アドバンテージが無いばかりか、規模性も劣る為、全社レベルで(=企業全体の収益で)勝ち難いのは分かります。
しかし、だからといって、同じコンビニ&フランチャイズのビジネスをしていながら、一店舗当たりの一日当たりの売上(日販)が約2割、具体的な金額で約10万も負けている、それも、私がビジネスに物心がついてから(笑)ずっと同様に負け続けているのは、どうにも不思議でなりませんでした。

ただ、「勝ちに不思議の勝ち有り、負けに不思議の負け無し」とは本当によく言ったもので、やはりローソンの店舗レベルでの大負けに不思議は無いようです。
私は過日、親友のYさんの推薦図書(笑)「個を動かす/新浪剛史 ローソン作り直しの10年」を読み、〔第7章/「個」に解きほぐされた消費をつかむー「CRM」への挑戦〕の以下の事項に、その答えを垣間見ました。
【1】新浪社長はPOSシステムの精度と可能性に懐疑的だった。
(←顧客の性別/年齢を店舗が「推測」する以外無く、また、同一顧客が識別できない為、トライアル率を代表とする、「マス顧客」の個別商品(単品)に対する評価行動は捕捉できても、リピート率を代表とする、「個客」の一連の購買行動が捕捉できない。)

【2】2002年、ローソンは「ローソンパス」なるポイントカードの発行を開始する(※2010年には「ローソンPontaカード」に刷新する)。
(→顧客から個人情報を詳細に取得し、顧客の「個客」化およびCRMを開始する。)

【3】2007年、セブンイレブンは「nanacoカード」なるポイントカードの発行を開始する。
(→顧客の「個客」化を開始するも、顧客から「住所」や「結婚の有無」といった詳細な個人情報は取得しない。)

【4】同年、ローソンは「ローソンパス」で取得した個人情報を基に、店舗を8パターンに分類する(※2010年には以下10パターンに詳細化すると共に、店舗の発注業務の省力化、自動化を推進する)。

A1:徒歩(高齢者)
A2:徒歩(単身者)
A3:車で5分程度
B1:男性職場
B2:女性職場
B3:事務所
C1:高校
C2:大学
D1:立ち寄り
D2:旅先


P184
(店舗をパターン分類したのは)店舗での発注時、それぞれのパターンの店舗で実際に売れている商品群から「置けば売れるはずの商品」の平均像を見いだして推奨する仕組みを導入するためだ。
「並べていたら売れていたかもしれない商品」という機会損失を予測して、これを防ぐ。その「起こり得る機会損失」を、店主の立てた「仮説」で見いだすのか、それとも、類似する顧客構成の店舗(同一パターンの店舗)から見いだすのか。前者がセブン、後者がローソンの取る手法だ。
もちろん、店舗はこの推奨商品群にない商品を発注することもできる。経験を積んだ店主であれば、パターンに従わなくても自店の特性を基に高い制度の仮説を立てて発注できる。だがすべての店主にその能力が備わっているわけではない。この発注推奨の仕組みを、スキルの高い店主は自らの発注に見落としている点がないかを見直す参考にすればいいし、経験の浅い店主はほぼこれに従いながら発注を学んでいけばいい。
(中略)
細分化を進めているのは、店舗を「個客」と向き合う「個店」へとさらに近づけるためだ。

P188
もう一つ注目したいのが「本部」と「加盟店」の役割分担だ。第六章で見たように、ローソンはMO(マネジメント・オーナー)制度などによって店舗の「運営」の権限を加盟店側に委譲しようと試みている。だが一方で加盟店任せだった「発注」業務は、むしろ逆に加盟店から本部へと移そうともしている
現場に近い組織がやった方が強みが出る業務は現場に権限を委譲し、逆に、集約した方が効果が高まる業務は本部が担う。データは大規模に蓄積するほど精度が高まる上に、これを処理するには大きなコストがかかる。そうした業務は本部が担うべきだ、というのが新浪の考えだ戦略を遂行するために、手持ちのリソース(経営資源)を組み替えていく「リソース・アロケーション(資源の再配分)」の典型だろう。
その狙いを、新浪に聞いた。

コンビニ業界では、加盟店オーナーの最大にして最重要の仕事が「発注」と言われてきました。

「もちろん発注は大事な仕事です。けれども、今までのように何の『武器』も持たないまま、長年の勘とか経験に頼って発注に時間を割くのをやめようということなんです。今の仕組みをうまく活用してもらえれば、オーナーさんにとっては、発注そのものにかける時間が減ることになる。その時間を何に使うかというとお客様と接する時間をもっともっと増やしてほしい。POSは言うまでもなく、Pontaでもまだ手が届かない情報、そのお客様がどんな人で、どんな家族構成で、どんなものを欲しがっているかというところまで知ってほしいんです。高齢者だけの話じゃない。若い方だって、一人暮らしが増えています。そういう方々に対して『憩いの場』にならなくちゃいけない。その場合、マニュアル通りにやってもダメです。もっと深く、お客様の『顔』を知るくらいにつながる。地域に貢献する『個店』であるために、そうして顧客と培った関係は武器になります。つまり、僕たちは抜群のハイ・テクノロジーでいこうと思っていますが、それはお客様とのハイタッチを実現するためなんです」

セブンイレブンのやり方とは、かなり違うようですが。

「セブンさんは、発注に徹底して注力しておられる。ここに時間をかけるとでも僕たちは、最後にはかなり自動発注に近いところまでいきたいと思っているんです。ほぼそのまま発注してもいいところまで品揃え提案の精度を上げていって、最後に普段お客様と密に接しているオーナーさんが調整が必要と感じたら、そこを修正して『よし』とボタンを押すだけ。ますます接客に注力できる、というわけです。もちろん、非常に特別なイベントとかアクシデントとかがあれば反映はできますけれど、基本的にはほぼそのまま発注しても機会損失を最小化できる、利益を最大化できるようなかたちまで持っていきたい。自動発注の仕組みを取り入れている小売業はあるんですよ。でも、ウチはPontaで集めたデータを基に自動発注の仕組みを作っていきたいということ。そこまでできている会社はちょっとないんじゃないかな」

なぜ、ローソンは店舗レベルで、セブンイレブンに大きく負け続けているのか。
私が垣間見た答えは、「セブンイレブンと比べて、店舗マネジメントが非教育的かつ非淘汰的だから」、です。

たしかに、ローソンは、現状の企業資産ないし企業体力を勘案するに、セブンイレブンとは異なる戦略を実行する必要があります。
ドミナントチェーンを徹底するセブンイレブンに対し、徹底し得ないローソンが店舗の「個店」化を志向し店舗が「顔の見える営業」に注力できるよう、「リソース・アロケーション(資源の再配分)」を行なう(→店舗の業務の内、本部がやった方が効果や効率の良い業務を、積極的に本部へ移管する)のは、理に適っています。
しかし、だからと言って、店舗の発注業務まで移管し、店舗の発注業務を「オートマ」化してしまうのは、やり過ぎです。

勿論、ローソンが本部として、店舗の発注業務を省力化すること自体は、間違いではありません。
店舗の業務コスト、それも、接客/販売業務の様な直接業務とは異なり、それ自体は直接キャッシュをもたらさない間接業務のコストを減らすことは、コンビニ&フランチャイズの本部の重要な役割の一つです。
しかし、自動化を視野に入れてまで発注業務を省力化するのは、自動車で言えば「マニュアル」だった店舗のこれまでの発注業務を「オートマ」に変えてしまうことと同義です。
オートマになってギア操作が簡略化されたことが、他の運転技術の向上をドライバーにもたらしていないのは、駐車や車庫入れに往生している風景が絶えないことを見れば一目瞭然です。(笑)
人間は「易きに流れる生き物であり」、作業の過度の簡略化、省力化は、当事者から要素能力を奪うばかりか、作業そのものと作業目標への執着も奪います。
自動化まで視野に入れた発注業務の過度の省力化は、店主の発注能力を奪うばかりか、発注のプロセスと発注商品の売り尽くしへの執着をも奪うに違いありません。

なぜ、セブンイレブンは、高コストを厭わず、店舗に発注業務を「マニュアル」で強いるのか。
私は、店主の発注の能力を絶えず開発することに加え、発注という業務プロセスとその目標達成(責任遂行)への店主の執着を絶やさない為、だと確信しています。
なぜなら、コンビニに限らず、店舗の売上は、詰る所、発注商品を売り尽くすことへの店主の執着で決まるからです。
店主足る者、自分の頭で考えて、考えて、考え抜いて断行して初めて、発注の能力を開発して然るべきであり、また、そうして必死で発注して初めて、自己責任の十字架を背に、自分の頭で最善の売り方を創造しながら、発注商品を売り尽くそうと試みて然るべきです。
そして、だからこそ、セブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文会長は、「仮説と検証」の意義と励行を絶えず説いておられるのです。

勿論、セブンイレブンの店主の中にも、ローソンと同様、発注の能力を開発するのが困難な人が少なからず居るでしょう。
更に、彼らの中には、本部のこの頑なな求めに応え切れず、別の道を選ぶ人も少なからず居るでしょう。
しかし、セブンイレブンは、強大な店舗開発力を背景に、それを見越しているに違いありません。
そして、淘汰の果て生き残った「真の商売人」足る店主、店舗とだけ、共存共栄の道を歩んで行く腹積もりに違いありません。
要するに、セブンイレブンの店舗マネジメントはローソンと比べて教育的かつ淘汰的であり、然るに、セブンイレブンの店舗は発注精度と売り尽くし力に秀でた「多数精鋭」で、ローソンの店舗に売上で大勝ちしている、ということです。

恐縮ですが、私は、新浪社長が接客の本質を誤解し、接客の可能性を過大評価なさっているように思えてなりません。
先述の通り、私は、ローソンが、現状を勘案し、店舗の「個店」化を志向し、「顔の見える営業」への注力を推進していることは肯定します。
「店主を筆頭に全店舗スタッフが、”その”顧客を『マス顧客の一人』ではなく『個客』と認識し、タイムリーかつ唯一無二の接客を励行する。
そして、ハートフルかつ双方向的な意思疎通を実現し、”その”顧客ならではの事情やニーズを把握する。
その上で、タイムリーかつ唯一無二の提案営業を行なうと共に、リピート来店の促進と次回発注の最適化(→品揃えの最適化)を図る」。
私は、「顔の見える営業」に対する新浪社長の思い入れを、こう理解しています。
しかし、「デートはセックスの端緒」である(笑)のと同様、「接客は商品売り尽くしの端緒」です。
「下心の無いデート」、即ち、「セックスとその大本の性欲に執着の無いデート」が単なる食事会に堕す(笑)様に、「商品の売り尽くしとその大本の発注に執着の無い接客」は単なる世間話に堕して然るべきです。
私は、新浪社長が店主のあるべき「下心」(笑)の意義と序列を再認識され、ローソンが店舗の「個店」化を実現するよう、願って止みません。(礼)



★ご参考:SNS経由でお寄せいただいた本記事に関するコメント
Google+
https://plus.google.com/u/0/104086542955423361492/posts/Deadndi8zJ9
Facebook(※要ログイン)
https://www.facebook.com/kimiohori/posts/10201458071596486







▼その他記事検索
カスタム検索

トップページご挨拶会社概要(筆者と会社)年別投稿記事/2013年

この記事へのトラックバックURL